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第15話 三杯目(3)
夜勤明け、大きく伸びをすると、自然と漏れる声、そしてあくびが一つ。今日も問題なく、仕事が終わり、ホッとする。そろそろ、昼の勤務の人たちや、早くから仕事の始まる従業員たちがやってくる時間だ。
「お疲れ~」
西山さんが小さな缶コーヒーを差し出しながら、声をかけてくれた。缶の柄をよく見ると、最近よくテレビのCMで見るやつだ。
「お疲れ様ですっ」
缶コーヒーを受け取り、両手で包み込む。
――あったけぇ。
なんともいえない温もりに、つい顔が緩む。
「あー、上原くんじゃーん」
受付のところから頭をのぞかせ声をかけてきたのは、私服姿の木村さんだった。
「あ、おはようございますっ」
「おはよう~」
俺が慌てて挨拶すると、ひらひらと手を振って去っていく。
「木村に気に入られたみたいだな」
缶コーヒーのプルタブを開けて、口をつけている木村さん。う、コーヒーのいい匂いが俺のところまで届く。俺もすんごい飲みたくなったけれど、久しぶりにカフェ・ボニータのカフェオレが飲みたい。俺は受け取った缶コーヒーを、制服のポケットに突っ込む。
「そうっすか?」
「ああ、あいつ、気にいったヤツにしか、挨拶しないし」
「え?でも、普通に先輩とかには挨拶してましたよ?」
昼勤務の時を思い出す。うん、普通だったぞ?
「そりゃ、仕事だからな。でも、自分より下のヤツとかには、あからさまに態度変わらるから」
「……そうなんですか?」
そういうのが想像できなくて、首を傾げる。館内を回っている間は、いつも女性たちに笑顔を振りまいてたような。
「ほれ、お前ら、そろそろ上がる時間だろ」
高田さんはまだなのか、受付のほうに立っている。昼勤務の人たちの姿もちらほら見えてきた。
「じゃあ、お先に失礼します」
「お先に失礼しまーす」
俺たちは挨拶をすると、二人だけ先に、ロッカーのあるほうへと向かった。すると、入れ違いのように制服を着た木村さんが出てきた。
「あ、西山さん、お疲れ様です」
「おお、お疲れ」
キリッとした顔で挨拶をする木村さん。さすがに大学の先輩の西山さんに対しては、俺に向けるような軽い挨拶にはならないようだ。
柔道の重量級でいかつい感じの西山さんと並ぶと、木村さんはイケメンの際立つ細マッチョ系。ある意味、真逆な感じだけど、二人の話をしている様子を見ると、けっこう、仲が良さそうに見える。
「お、お疲れ様ですっ」
制帽をとって挨拶する俺。同じくらいの身長の二人に挟まれると、捕まった宇宙人感が半端ない。
「おう、お疲れ様。久しぶりに夜勤で疲れたんじゃない?」
そんな俺の頭をわしゃわしゃする木村さん。なんか、ペット扱い?西山さんのさっきの言葉を思い出すけど、全然、ピンとこない。
「大丈夫ですっ。じゃ、お先に失礼しますっ」
二人はまだ話を続けそうな感じだったので、早く久しぶりのカフェオレが飲みたい俺は、急いでロッカーのある部屋に向かった。
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