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第17話 三杯目(5)
携帯を片手に、俺はカフェオレと餡バタートーストを待っている。今日も母さんと弟の征史郎からの『いってきます』というメッセージを確認して、ホッとする。ここのところ、同じような時間に出勤していたこともあって、慌ただしくてまともに話をしてなかった。俺が夜勤のほうが、よっぽども話ができる。
「えーと、今日の夕飯は……」
母さんの続きのメッセージを見ると、どうも今日はカレーがいいらしい。冷蔵庫に野菜の在庫があったか微妙だが、面倒だから一気まとめて買えばいいだろう。すぐに傷むようなものでもない。朝食をとったら、そのまま食品売り場に直行してしまえば、二度手間も省ける。そう思って携帯の画面を消した時。
「お待たせしました」
背後からホワイトさんが声をかけてきた。驚いて振り向くと、ホワイトさんがカフェオレと餡バタートーストが載ったトレーを持って立っていた。いつから、そこに立ってたのか、全然気が付かなかった。
「あ、ありがとうございます」
俺はなんとか笑みを浮かべながらトレーを受け取る。そこには頼んだ物の他に、ゆで卵と……小さなサラダが載っていた。
「え、あの、俺、頼んでないです」
焦ってホワイトさんの顔とサラダを何度も往復する。だって、本当に頼んでいないのだ。
「ん、それはオマケ」
うわ、なんかキラキラがバージョンアップしたような笑顔。
「いや、でも、それは」
「ほら、早く食べないと、トースト、冷めちゃうよ」
「ホワイトさん」
「男の子だったら、もっと食べないと大きくなれないぞ」
ニッコリ笑いながらさりげに酷いことを言うホワイトさん。最後の言葉が何気に傷つくというか。思い切り『ガーン』という音が、俺の頭の上に浮かんだ気がする。
そんな俺をよそに、ホワイトさんはカウンターの方へと戻っていく。俺はその背中を見送ると、渡されたトレーをテーブルに置いた。
小さなサラダは、セットメニューについてくるヤツで、俺はほとんど食べたことはない。本当に食べていいんだろうか、と、チラリとカウンターのほうに目を向けると、裏から出てきてた女の子のスタッフの子と目があった。するとなぜだか、彼女は親指を立てて満面の笑みを浮かべてる。なんでだ?と、思いつつも、俺はへらっと笑顔を浮かべて、再びトレーに目を向ける。
せっかく頂いたのだし、これを残す方が失礼だろう。俺はポツリと「いただきます」と呟いて、フォークを手にするとサラダの中のレタスに突き刺した。
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