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第18話 三杯目(6)

 綺麗に食べ終わったトレーを手に、返却口へと持っていく。その頃にはお客さんも増えてきていて、カウンターのところにはちょっとした列ができていた。スタッフも、もう一人、女の子が増えている。 「ごちそうさまでした~」  俺は小さな声で言いながら返却用の棚にトレーを置く。すると同時に、閉まってた扉がサッと開くと、中からホワイトさんが顔を出した。 「あ、もう、帰る?」  突然、ホワイトさんに声をかけられて、びっくりする俺。ホワイトさんは、中で調理でもしてたんだろうか。 「え、あ、はい」 「じゃ、ちょっと待って」 「え?」  俺の返事を聞かずに、ホワイトさんはトレーを受け取るとすぐに扉を閉めてしまった。何か用があるんだろうか、と、戸惑いながら待っていると、ホワイトさんがカフェ・ボニータのロゴがデザインされた小さな紙バックを持って出てきた。 「よかったら、これ、使ってみて?」  そう言って渡された紙バックの中には、小さなボトルが一本入っていた。手に取ってみると、中には白っぽい液体が入ってる。 「え、えと、これって」 「これ、うちのサラダに使ってるドレッシング。一応、小売りもしてるんだけど」  そう言って、カウンター脇に置いてあるディスプレイのほうに目を向けるホワイトさん。そう言われてみれば、これよりも大きめなボトルが置いてある。 「もし、嫌いじゃなかったら使ってみてくれないかなって思ってね」 「さっきのサラダにかかってたやつですか?」  さっきいただいた小さなガラスの器に盛られてたサラダには、白いフレンチドレッシングがかかってた。ちょっと酸味が効いてたけど、けっこう俺好みではあった。このボトルに入ってるのがそれなんだろう。 「うん。綺麗に食べてくれたみたいだから、大丈夫かな、とは思うんだけど」 「はい、美味しかったですよ。頂いちゃっていいんですか?」  ディスプレイされている商品に書いてある値段は、正直、ちょっとお高め。たぶん、うちが普段買うのよりも三倍くらい高い気がする。たぶん、これをサラダにかけたら、ちょっとだけゴージャスな気分になりそうだ。 「いいよ、いいよ。よかったら、ご家族の感想なんか、聞かせてくれたら嬉しいな」 「わかりましたっ。じゃぁ、さっそく、今日の夕飯にでも使わせてもらいますね」 「本当?じゃぁ、明日、感想聞かせてくれる?」 「はいっ」  ……と、勢いよく返事をした後に、ハッと気が付く。ということは、明日もホワイトさんがお店にいるってことか。ホットミルクは、またの機会だな、と、少しガッカリしながら、俺は笑顔で軽く手を振って、カフェ・ボニータを後にした。  内心、夕飯の材料を買って帰らなくちゃ、と気合を入れて。

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