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第27話 五杯目(1)
ホワイトさんが言ってた通り、週明けにはショッピングモールのお店にホワイトさんの姿があった。やっぱり、自分のお店のせいなのか、大学のそばの店にいた時よりも、よっぽども柔らかい表情で仕事をしていて、俺も少しだけ、ホッとする。
久しぶりに夜勤明けの朝食に、ホワイトさんの笑顔付き。イケメンはやっぱり、笑顔のほうがいい。疲れ果てても、なんだか元気になれるのが不思議だ。この前貰ったドレッシングが家族で大好評だったことを伝えると、嬉しそうに喜んでくれた。ちょっと値がはるから、しょっちゅう買えるものではないのが残念ではあるけど、さすがに、それは言えない。
平日の朝の時間帯はカフェ自体がそれほど混まないせいなのか、よくホワイトさんが話しかけてくれる。だいたいが他愛ない話なんだけれど、大学を休学してからはバイトに勤しんでたから、こうしてのんびり話をする相手は貴重だ。
気が付けば、そろそろ厚手のコートが暑く感じるようになる季節になった。弟の征史郎も高校三年になる年になり、本格的に受験生になる。俺が休学している手前、大学に行くのを躊躇っているようではあったけれど、俺と母さんの説得でなんとか進学する方向で考えてくれている。征史郎の成績だったら、奨学金を利用することも可能だろう。
それでも、親子三人で暮らすのには、なかなかシビアな家計状態なのは変わらない。俺の時は、まだ親父が生きてたからなんとかなった。征史郎が大学進学するとなっても、母さんも働くとかして、なんとかしただろう。だけど、今は状況が違う。それだけに、母さんがいつも申し訳なさそうな顔をする。それを見るたびに、俺の方が申し訳ない気持ちになるんだけど。
バイトの給料は悪くはない。ただ、先々のことを考えると、不安だ。やっぱり、大学を辞めて、ちゃんと就職することを考えた方がいいんだろうか、というのが、最近の俺の悩みだったりする。
そんな相談にのってくれるのは、最近はすっかりホワイトさんったりする。警備員の先輩たちにも、ちょこちょこ話を聞いたりもするけれど、仕事中だったりするので、そんなにガッツリ話を聞く余裕がない。といっても、ホワイトさんも仕事中なんだけど、俺が朝食をとってる時に、いつもテーブルを拭きながらとか、隣の席に座ってとかして話を聞いてくれるのだ。
「でも、お母さんは、上原くんに大学出て欲しいんだろう?」
ホワイトさんは周囲を見回しながらも、すっかり腰を落ち着かせている。それだけお客さんが今はいないからだけど。何より、カウンターの中にいる顔見知りになった女性のスタッフさんの立花さんが、ニコニコしながら俺たちの方を見てるくらいに暇なようだ。
「まぁ……休学しろって言うくらいですからね」
こう見えて、一応、法学部に通っていたので、母親としては法曹界方面に進んで欲しかったのだろう。俺自身もそのつもりでいたし。でも、それは金銭面に余裕があればこそ、だ。
「弟くんもバイトとか始めたら、少しは余裕が出来るんじゃない?」
「どうですかねぇ。バイトばっかで勉強しないんじゃ、本末転倒なんで」
「そりゃそうだけどね」
苦笑いを浮かべたホワイトさん。ちょうどお客さんが来始めたみたいで、「じゃぁね」と声をかけてから、俺の傍を離れていった。
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