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第35話 六杯目(4)

 幾分眠い目をこすりながら、いつも通りにカフェ・ボニータに行く。相変わらず、この時間帯はお客さんが少ない。だからこそ、のんびりできるのだが、今日は、母さんに携帯にメールしなくちゃいけない。  大学の休学は確か一年間だった。もう、その期間も終わる。大学への未練がないわけじゃないけど、ずるずるとバイトを続けるよりも、就職したほうがいいんじゃないか。母さんの望みに合わせて休学したけれど、もう、いいんじゃないか。その就職先は、今の警備会社って決めたわけじゃないんだけど。そう言う話もある、って伝えれば、大学を辞めることも、考えてもらえるんじゃないか。  そんなことを考えながら、俺はいつも通りのカフェオレと餡バタートーストを注文して、番号札を受け取る。今日は、新人さんがいるのか、手際がよくないみたいだ。まぁ、そんな時期もあるよな、と思った俺は、そのまま、いつもの席へと向かう。  番号を呼ばれるまで、と、携帯をとりだして母さんに送る文面を考える。 「母さん、がっかりするよなぁ……」  俺が大学に受かった時、父さんも母さんも、ものすごく喜んでくれた。あの時の笑顔を思い出すと、余計に心苦しくなる。特に、 『母さん、大学受験に失敗して、浪人する余裕がなかったから、短大に行くしかなかったの』  そう言って俺の合格に涙してただけに、母さんの期待に背いてしまうことが、申し訳なく思ってしまう。 「……番のお客様~」  考え込んでいる途中に番号を呼ぶ声が聞こえる。 「九番でお待ちのお客様~」 「あ、俺だ」  番号札を持ってカウンターのところまで行き、カフェオレと餡バタートーストを受け取る。バターの香りに癒される俺。思わず、口元が緩む。とりあえず、しっかり食ってから、メールしよう、と思って席に戻ってみると、携帯に着信の履歴があった。休学してから、大学の友人たちとの交流がなくなった俺に、メールしてくるのは家族くらいしかない。 「……母さん?」  この時間だと、もう職場についている頃のはず。何かあったのかとメールを開くと。 『帰ったら話があるから、バイトに行かないで待ってて』  母さんから話?まさか。征史郎の勘が当たってたり?付き合ってる人を紹介してくれるとか?でも、様子がおかしいのはここ一週間のことだし。それとは関係ないのかもしれない。でも……。  色々考えてしまって、頭の中はぐるぐるしている。  俺は顔を強張らせたまま、携帯の画面をしばらく見つめると、よし、っと気合を入れて返事を入力する。 『俺のほうも、話がある。待ってる』  直接、就職の話ができるのなら、メールする必要はない。母さんへ返事を送信すると、ようやくホッとした。 「とりあえず、飯だ、飯」  俺は餡バタートーストに食らいつくと、後で今日は遅れるかもしれないって、高田さんに連絡しなくちゃ、と思った。

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