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第38話 七杯目(1)

 どうやって、ショッピングモールまで無事に到着したのか、わからないが、今の俺は、なんと、ちゃんと警備員の制服を着ている。自分でもびっくりだ。防災センターは、すでに夜勤のメンバーが揃っている。 「上原くん、大丈夫?」  伝達事項を聞き終えて、ショッピングモールの出入り口のドアへと向かって俺の隣を歩くのは、木村さんで、すっかり夜勤チームに馴染んでる。 「え?あ、ああ。大丈夫ですよ」  そう言われて、笑顔を返す。このままではいかん、と、俺は顔をパシリと両手で叩いて気合を入れる。 「お、気合入ってんな」 「すんません」  苦笑いして返事をすると、俺と木村さんはドアを開けると二手に分かれる。いつものように、チェックしながら歩いているつもりなのだけれど、時々、頭の中にホワイトさんの顔が浮かぶ。  本当に母さんと結婚するんだろうか。  というか、どこで二人は知り合ったんだろう。  母さんとホワイトさんじゃ、年齢差が結構ある気がするんだけど、ホワイトさんは年上の女性が好みだったのだろうか。  そりゃ、化粧すれば、少しは若くは見えるかもしれないけど、俺のような、今年、ニ十三にもなる子供がいるんだよ?その相手に求婚するとかって、よっぽどの気合がなけりゃ、無理だろう。  母さんがホワイトさんのことを話している時の顔は、なんだか幸せそうで、俺なんかが反対しちゃいけない気がした。 「仕方ねぇか……母さんのためだもの」  そう声に出したけれど、なぜか胸の奥がツキンと痛む。その痛みに、頭を傾げながら、いつものように巡回していくと、いつものようにカフェ・ボニータに着いてしまう。  今日も電気が消えているかな、と見ていると、なんとまた、厨房スペースに電気が点いている。まだ、誰かが残ってたんだろうか。俺は周囲をキョロキョロ見回すけれど、誰もいないみたい。  俺はチェック用のクリップボードを手に、チェック項目に目を向けながら、厨房スペースの方へと向かう。 「失礼しまーす」  誰もいないと思っても、ついつい、声を出して挨拶をする。ドアを開けてみれば、案の定、誰もいない。 「駄目ですよぉ。ちゃんと電気を消さないと~」  そう言いながら、電気のスイッチに手を伸ばした時。 「あ、すみませんっ」  その聞き覚えのある声に、ドキリとした。まるで油を差し忘れた機械みたいに、音が出るなら、まさに『ギギギッ』ってしそうな感じで、振り向いた俺。 「上原くん?」 「ホ、ホワイトさん」  まさか、まさかのホワイトさんだった。

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