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第39話 七杯目(2)
てっきり、もう、別の店にでも異動してしまったのではないか、って思ってた。それくらい、ホワイトさんとは会っていなかったのだ。まぁ、その間、母さんとは会ってたのかもしれないけど。
「こ、こんばんわ」
「ああ、こんばんわ」
満面の笑みを浮かべて、俺の方に向かって歩いてくる。私服姿のホワイトさんは、相変わらずモデルみたいで、目が離せなくなる。
「あれ、今日はこちらにいらしたんですか?」
俺は、なんとか視線をはずしながら、問いかけてみた。スーツ姿ではないところを見ると、お休みか何かだったんだろうか。
「亜紀子さんから連絡をもらってね」
いきなり母さんの下の名前が出てきて、ドキリとする。もう、そんな風に呼び合ってたりするのか、と思ったら、余計にショックに感じてしまった。
「私の話を聞いてくれたんだよね?」
「……はい」
そう答えると、まるでキラキラと光が舞うような笑顔を俺に向けてくる。うわぁ……モデルから王子様に変身って感じかよ。
「亜紀子さんが、上原くんが了解してくれたっていう話を聞いたら、居ても立っても居られなくてね」
本当に嬉しそうに笑うホワイトさんに、胸の奥が、一際、ズキリと痛くなった。
――なんで、こんなに辛いのか。
――そんなの、本当はわかっていたはずだ。
――俺はホワイトさんのことが好きだってことを。
顔を見たとたん、急に自覚するとか、神様もひどいことをする。散々、母さんとの結婚を自分に納得させようと、頭の中で言葉を紡いだけれど、こうして顔をみたら、胸の中が苦しくなるんだ。それはもう、自分の気持ちを認めないといけないだろ。相手が男のホワイトさんだとしても、好きになっちゃったんだもの。
だけど、もう、それを口にすることは出来ない。だって、もうすぐ義父になるんだ。そもそも、同性であるホワイトさんに、俺から何も言えるわけでもない。
自分の苦い想いを無理やりに飲み込んで、俺はなんとか笑みを浮かべる。
「ホワイトさんが、うちの母と知り合いだなんて、知りませんでした」
「ああ、ごめんね。上原くんにちゃんと話をせずに、亜紀子さんと直接話をしてしまって」
「いえ、それは別に。二人で決めてもらう話ですし」
事実、俺がどうこう言える話じゃない。少し慌てたようにそう答えると、俺は腕時計に目を向ける。このままだと、また、ホワイトさんが始末書を書くことになってしまう。
「あの、ホワイトさん、そろそろ退館していただかないと……ここの電気、消し忘れみたいですんで、注意してくださいね」
そう言うと俺は厨房スペースの電気を落とすと、苦しくて歪みそうな顔を隠しながらホワイトさんの脇から抜け出そうとした。
「上原くん?」
その時、ホワイトさんの心配そうな声とともに、俺の腕を大きな手が掴んだ。
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