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第40話 七杯目(3)

 無意識だった。だけど、身体が勝手に、ホワイトさんの腕を振り払ってた。 「あっ」  思わず声をあげたのは俺の方。振り払われたホワイトさんも驚いたように目を見開いてる。 「す、すみませんっ」  謝罪の言葉は出たけれど、俺は背中を向けて店から出ようとしたんだけど、今度はしっかりと、ホワイトさんに腕を掴まれたかと思ったら、振り向かされてしまった。俺の目線に合わせようとして、少し膝を屈んでる。ぐっ。目の前にイケメンの顔。やばい、やばすぎるだろ。驚きながらも呆然とホワイトさんの顔を見つめてしまう。 「上原くん、どうしたんだ?顔色が悪いし、何かあったのかい」  ええ、原因はあなたですけどね。  そう答えられたら、どんなにか楽だろう、と思いましたよ。だがしかし。未来の義父に言えるわけがない。 「なんでもないですよ。大丈夫です。ほら、早く出てくださいね」  うん、俺、結構、頑張った。顔に笑顔を貼り付けて今度こそホワイトさんから離れようとしたんだけど。 「上原くん、そんな顔をしてたら、大丈夫だなんて思えない」  真剣な顔のホワイトさんが、いきなり俺の身体を抱き上げた。うぉいっ!?これって所謂、お姫様抱っこってやつじゃないかっ!? 「ちょ、ちょっと、ホワイトさん!? お、俺、マジで大丈夫ですよっ」 「いや、顔色がひどく悪い。今日は、もうあがらせてもらいなさい」 「なっ!? まだ、来たばっかですよっ」  俺がぎゃぁぎゃぁと文句を言ってるにも関わらず、ホワイトさんは憮然とした顔で、そのまま抱えて歩き出す。 「ホワイトさんっ」 「あんまり騒ぐと落ちるよ」 「ぐっ」  俺、そんなに背は高くないかもしれないが、けして女の子みたいに軽いわけじゃないのに、ホワイトさんは軽々と抱えてる。ある意味、ショックだ。でも、これ以上暴れて、下手にホワイトさんに怪我とかさせるわけにもいかない。俺は渋々、暴れるのをやめた。  抱えられたまま防災センターに向かうと、途中、何人かの人とすれ違ってしまう。たぶん、そろそろ飲食店のフロアが閉店する時間で、ちょうど帰る人たちがいるんだろう。男のそれも警備員が、イケメンに抱えられての移動とか、かなり屈辱的。俺は恥ずかしくて顔を伏せてしまう。 「あれ、どうかしましたか」  防災センターに着いてすぐに聞こえてきたのは、高田さんの心配そうな声。俺はすぐに、ホワイトさんに降ろしてもらう。さすがに、ここまで来てずっと抱えられっぱなしはない、と俺ですら思う。くそー、恥ずかしすぎて死ねる。 「お疲れ様です。さっき、うちの店のところで会いましてね。ちょっと具合が悪そうだったので」 「ああ、やっぱり」  ホワイトさんの気づかわし気な声とともに、高田さんも納得したような声。何がやっぱりなんだ、と思った俺は上目遣いに高田さんのほうに目を向ける。目の前に立っている高田さんの顔は、やっぱり心配そうな顔をしていた。 「なんか、出勤してきたときから様子がおかしかったんで、少しばかり心配してたんですよ」 「……そうなんですか」  俺の方は、まさか高田さんに心配されてたとは思わず、ちょっとだけびっくりする。そんなに、俺、バイトに来た時、おかしかったんだろうか。  一瞬、考え込むような顔をしたホワイトさんだったが、すぐに顔を引き締めた。 「でしたら、今日はもう彼を帰してもらえませんか」 「……まぁ、特に夜間作業が入ってるわけじゃないから、なんとかなりますが……上原、帰る……」 「え、いえ、大丈夫ですっ」  俺は高田さんの言葉に被せるように、反論する。 「ホ、ホワイトさんは心配しすぎですよ。俺、マジで大丈夫ですからっ」  必死にそう言う俺の顔を、高田さんは眉間に皺をよせてジッと見つめると、大きくため息をついた。 「はぁ……やっぱ、帰れ」 「ええっ!?」  高田さんの言葉に、俺は顔を引きつらせる。本当に俺は大丈夫なのに。高田さんにそう言っても、まったく取り合ってもらえず。 「とりあえず、今日は帰っとけ。んで、明日はよろしく。ちゃんと休んでおけよ」 「いや、あのっ」 「じゃぁ、上原くん、私の車で送っていこう」 「え?えぇぇ!?」  まさかのホワイトさんの車での送迎とか。『義父になる現実』を見せつけられるのか、と考えると、胸苦しい思いで自然と顔は強張っていった。

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