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第41話 七杯目(4)

 そして、俺は今、ホワイトさんの車の中である。  俺の自転車はショッピングモールの駐輪場に置きっぱなし。明日、どうやって来ようか、と何気に心配になった。歩いてくるしかないか、と思うと、少しだけ面倒だという気持ちも浮かんでしまう。  その一方で、ホワイトさんと二人きりという状況を、嬉しく思ってる自分もいる。でも辛く感じる自分もいる。そう簡単に、すっぱりと思いきれない自分が情けない。  助手席に乗っている俺は、当然、警備員の制服は脱いで、普段着姿。外の夜景を見てるフリして、身体の半分は、すんごく、すんごく、ホワイトさんを意識してたりする。静かなBGMが響く車の中は、きっと何もなければ居心地がよかったに違いない。  ホワイトさんは案内も必要ないようで、俺の見慣れた景色の中を迷いなく車を運転してるのに、何気にショックを受ける。そんなことでホワイトさんと母さんとの距離を痛感させられた。  気が付けば家の近くのT字路まで来ていた。本当に車で来るとあっという間の距離だ。ここで右折して少しいけば、もう家だ。その手前でホワイトさんの車が止まった。もうすぐ、二人きりの時間が終わってしまう。 「……上原くん、さっきの話なんだけどね」  ホワイトさんのどこか嬉しそうな声が聞こえた。俺はゆっくりと目をつぶり、ゴクリと喉を鳴らす。今以上の引導を渡されるようなことを言われるのはキツイ。頭でわかってても、心はついていけてないからだ。 「もう、母から聞いているので」 「いや、ちゃんと私から説明したいんだ」 「……」  どうしても、聞かなきゃいけないらしい。ホワイトさんの少し強引な感じに、俺は小さくため息をつく。 「説明も何も、二人が思い合ってるんだったら、俺がどうこう言える話じゃないでしょう」  投げやりにそう答えると、背後の雰囲気が急に変わった気がした。それも、ひどく冷たいものに。俺はもう逃げ出したくて、シートベルトをはずす。 「上原くん、君の考えはどうなんだ」  俺は振り向くとホワイトさんを睨みつける。真面目な顔のホワイトさんは、ムカつくくらいにイケメンだ。 「俺の考えなんか関係ないでしょう」 「君の人生のことなのに?」 「なんで、俺の人生が関係あんの?ホワイトさんと母さん、二人の人生でしょうが」  吐き出すようにそう叫ぶと、俺は車から降りようとドアのロックをはずして降りようとした。 「ちょ、ちょっと待ってっ」 「うわっ」  ホワイトさんの焦った声とともに、いきなり腕をつかまれた俺は一気に後ろに引き倒されてしまった。 「なっ、何するんですかっ」 「上原くん……どうも、何か誤解があるみたいだね」  文句を言いながら振り向いて見たホワイトさんの顔は、笑顔なのに目が笑っていない。そんなホワイトさんを見たことがない。俺は少しだけ、怖く感じて、身体が強張ってしまった。 「もう一度、シートベルト締めて。場所を変えて、ちゃんと話を聞いてもらおうか」  ホワイトさんの醸しだす雰囲気にのまれた俺は、大人しくシートベルトを締めていた。

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