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第43話 七杯目(6)

 部屋の中はコーヒーの匂いが漂ってきた。ホワイトさんは家でもコーヒーなんだ、と変なところで感心する俺。でも、こんなにいい匂いがするのは、インスタントじゃないんだろう。  俺はなんとなく落ち着かなくて、部屋の中をキョロキョロ見回してしまう。大きな薄型テレビは俺のうちのより、当然のようにデカい。それに天井高い。大き目なシーリングライトが、煌々と光ってる。カーテンのかかった窓際の方にもスタンドタイプの間接照明っぽいのも置いてある。これだけになったら、きっとムーディーな大人な雰囲気とかになったりするんだろうか。  そこで、俺は想像してしまう。母さんとホワイトさんが二人きりでいる様子……なんか、無理だ。母さん、という時点でなんかそういう想像が出来ない。でも、二人が結婚するってことは、そういうことなわけで……。  そして今更思い出す。母さんがホワイトさんからもらったとかいう名刺のこと。『日本支社長』ってなってなかったか。だからこんなに立派な部屋に住んでるのか、と納得する。え、てことはセレブな部屋に引っ越し?いや、あの家どうすんだ?もしかして、俺と征史郎だけ、実家で生活か?そういえば、ホワイトさんは何か誤解があるって言ってたけど、何だっていうんだろう。  悶々としながら大きなソファに座ってると、俺の目の前にはマグカップが置かれた。 「上原くんは、これね」  大きなダークブラウンのマグカップには、なみなみとホットミルクが入ってる。あれ?コーヒーの匂いがしたはずなのに。ふと目をあげると、ホワイトさんも同じようなマグを持って立っている。 「私はコーヒー。上原くんは体調悪そうだったし、もう遅い時間だからね」  ホットミルク、大好きだけどさ。特にカフェ・ボニータの。せっかくだからマグを手にする。 「まだ、熱いかもしれないから、少し冷ましてからがいいかも」  どこか優しさが滲むその言葉に、俺は口をすぼめて、ふーふーと息を吹きかける。そうしている間にホワイトさんは俺の隣に座った。大柄なホワイトさんが座っても、結構余裕のスペース。俺とホワイトさんの間には、もう一人ぐらい座れそうだ。  もういいかな、と思いながらマグに口をつける。 「あちっ」 「ほら、だから熱いって言ったじゃないか」 「い、いや、でも大丈夫です」  ホワイトさんが立ち上がってどこかに行こうとしたのを、俺は引き留めた。そして、もう一度、ふーふーとしてから、ちょっとだけ口をつける。 「……お、美味しいです」  カフェ・ボニータのホットミルク、そのままだ。そりゃ、店長さんなんだもの、同じものが出てもおかしくはないだろうけど……ハチミツの甘さの加減も俺好み。なんだか、嬉しくなって、自然と笑みが浮かんでくる。  そんな俺を隣に座って見つめるホワイトさんの視線が、何気に痛い。俺の視野に入ってくるホワイトさんのコーヒーを飲んでる姿が大人でカッコいいんだけど。

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