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第44話 七杯目(7)

 俺がホットミルクを半分くらい飲み終えた頃。 「落ち着いた?」  ホワイトさんが声をかけてきた。ホットミルクのおかげもあってか、少しばかりもやもやした気分は減ったかもしれない。素直に頷くことが出来るくらいには。 「このホットミルクって、カフェでも出してるのと同じ味ですよね」 「お? もしかして、飲んだことがあるの?」  満面の笑みで、コーヒーを口に運ぶホワイトさん。くっ、絵になる姿って、なんかズルい。そのまま、マグカップは傍のテーブルにコトリと置かれる。 「このホットミルクはね。私の曾祖母のレシピなんだよ」 「そ、曾祖母?」  俺は頭を捻る。曾祖母ってことは……ひいばあちゃんってことか。 「うちのカフェはね。元々、うちの曾祖母がアメリカで始めた小さなコーヒーショップから始まったんだ」  そう言いながら、ホワイトさんは優しい声で話を続けていく。   「カフェ・ボニータっていう店の名前は、当時、曾祖母が付き合ってたスペイン系の男性に、自分のことを『ボニータ』と呼ばれたことから、その響きが気に入ってそのまま付けたらしい。結局、その男性とは結婚しなかったらしいけど」  結婚しなかった相手の言葉をそのまま使い続けるとか、随分と肝の座った女性だったのだろうか。というか、カフェ・ボニータって家族経営!? いや、でも、アメリカでは、かなり大きなグループチェーンだったはず……まぁ、日本では、某大手と比べちゃったら、まだまだかもしれないけど。俺は、驚きながらも、ホワイトさんの話に耳を傾ける。 「で、その曾祖母のカフェと共に、ホットミルクのレシピも残った。ハチミツの甘さがね、クセになるんだ。まぁ、日本ではそれほど目立ってないけど」  少し苦笑いするホワイトさん。 「で、でも、美味しいです。俺、これ好きなんです」  俺はマグカップを両手で抱えながら、ホワイトさんに向かって言った。誰にも言ったことはなかったけど、ホワイトさんなら、子供みたいだなんて笑ったりしない、と思ったから。 「そうか。上原くんは、ホットミルクが好きだったのか……嬉しいな」  柔らかく微笑むホワイトさんに見つめられて、俺は慌てて、再びマグを口元に持っていく。 「……ところで、そろそろ本題にいってもいいかな」  同じように優しい声が聞こえてきたから、思わず目を向けると、そこには真面目な顔で俺を見つめるホワイトさんがいた。真剣な眼差しすぎて、目が逸らせない……というか、なんか怖いんですけど。俺、顔が引きつってる気がする……ホットミルクの意味がない気がした。

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