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第47話 七杯目(10)

 そんな俺の微妙な考えなど思いもしないのか、ホワイトさんの話は続く。 「そこで、亜紀子さんに個人的に上原くんに援助することを申し入れたんだ」 「個人的に?」 「そう。上原くんは、大学四年の一年間だけが残っているという話だったよね。だから、その一年間分の学費だけ、私のポケットマネーで援助しよう、ということだよ」 「え?」  俺は呆然とホワイトさんの顔を見つめる。 「いや、でも、ホワイトさんにお金を出していただく言われはないというか」 「ただし、条件があるんだ」  少し真剣な顔をして、指を目の前に差し出す、ホワイトさん。 「大学四年の一年間は、うちの店でアルバイトをすること。そこで現場を勉強してもらって、最終的にはうちの会社に入社してもらうこと。それが条件」  ……はい? 「店舗での採用ではなく、本社の法務か総務。所謂、青田買い」  フフフっと笑うけど、俺の方は、ぽかーんとしてしまう。俺なんか、まだ、海のモノとも山のモノともいえないのに? 「慈善事業っていうつもりじゃなく、奨学金と同様に、社員になったら給与から少しずつでいいから返済すること。君が社員になることで、将来的にうちの利益になるならっていう思いもあるから、気にしないで欲しい。その代わり、しっかり勉強してもらわないと困るけど」 「いや、でもっ」 「亜希子さんからは了解をもらってる。けして小さな金額ではないからね。それに、これは上原くんの人生がかかってる。最終的に決めるのは上原くん本人だって言ってたから、一応、会社のパンフレットも渡してたはずなんだけど……さっきまでの様子だと見てなかったね」 「見、見てません……」  母さん、そんなの見せないで、一気に話してた気がする。というか、あの時、そんなこと話してたのかって、今頃思う俺。確かに、すでに就職先まで決まってるっていう話は、悪くはないとは思うけど……そんなに甘えていいんだろうか。 「うちの会社で働くっていうのは、嫌かい?」  唐突に言われても、考えたこともなかったし、そういう選択肢もあったのか、という程度で嫌とかダメとか考えてもいない。というか、ホワイトさんが俺の上司になるってこと?いや、日本支社長って肩書上、直接の上司ではないのか。 「……考えたことなかったから」 「なら、考えてみてくれ」  俺の両手を握りしめ、ジッと見つめてくる。その瞳の色は……濃い青。こんな風に見つめ合ったことがないから、その青い瞳になんだか吸い込まれそう。俺は素直に握りしめられたまま、目が離せない。たぶん、見惚れすぎて顔が赤くなってる気がする。  すると、ホワイトさんの顔が、少し切なそうに眉を顰めた。   「そんな顔をされたら、気持ちが抑えられなくなるよ」 「へっ?」  ホワイトさんの言葉に、変な声で返事をした俺の唇に……なぜか、ホワイトさんの唇が重なった。

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