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第48話 七杯目(11)

 俺はかなりパニクッていた。  キスだぞ。キス。さすがにファーストキスってわけじゃないけど、久しぶりの感触に、俺は完全に固まった。  いや、そもそも、男同士だし、そりゃ、俺はホワイトさんが好きだから、う、嬉しいけどっ、ホワイトさんのそれは、どうなのよ?あ、外人だから、外人だからか?挨拶?挨拶のキス?  うえぇぇぇっ!? と思って固まってしまった俺をよそに、唇を離したホワイトさんが、大きくため息をつきながら俺のことを抱きしめた。うぉぉっ、俺の心臓が爆発しそうなんだけどっ! 「上原くん……ごめん」 「……へ?」 「君があまりに可愛くて、我慢できなかった」  俺、さっきからまともに返事できてない。ていうか、この状況で返事できる奴がいたら、教えて欲しい。っていうか、無理だろ、それはっ。顔がむにゅむにゅと笑みを浮かべそうになるのを必死に抑え込もうとして、変顔になりそう。とりあえず、挨拶ではなかった、ということはわかる。というか、わからないほどの馬鹿ではない。  蕩けそうな顔のホワイトさんに、俺の心も蕩けそう。   「……あ、あの、ホ、ホワイトさんは、そっちの方だったんですか?」  自分のことを棚に上げて、つい、ぽろっと、ホワイトさんの方を確認してしまった。  俺?俺は元々は違ってた。違ってたけど……今の俺は、こっち側、ということなんだろうか。  ――いや、でも、男なら誰でもいいわけじゃない!  そう思って、西山さんや木村さんが頭の中に浮かんだのを、違う、違う、と思い切り塗りつぶす。そういう目で見たことなど、一度もないっ。 「そっち?……ああ、ゲイかってこと?」  俺の頭に頬ずりしながら、答える声は、どこか楽しそう。大きな掌が、俺の襟足あたりにある短い髪をさわさわと撫でてる……俺は、犬か? 犬なのか?なんか、段々、マッサージっぽくなってる。それが心地よく感じてしまう。 「いや。この年になるまで、女性以外、まったく興味はなかった」 「この年って……いくつなんですか」 「いくつに見える?」  まぁ、定番の切り返し。そう言われれば素直に感じた通りに答えるしかない。 「えと……ニ十八、とか九くらい」 「嬉しいねぇ」  クスクス笑いながら、また唇に軽くキスをする。外人、すげー。簡単にキスしてくるよ。俺の目は点だ。ジッと見下ろし笑みを浮かべるホワイトさん。 「こうみえて、もう三十五なんだけど」 「えっ」  ……俺は再び固まった。う、嘘だぁ。三十五って……なんか、もっとオッサン臭いというか、こんな若々しいイメージじゃない。だって、いい匂いもするんだぞ。 「おじさんは嫌かい?」 「えと、お、おじさんとか、全然見えないというかっ」  もう、俺の頭、ぐるんぐるんだよっ!なんか、まともに話出来てる?俺? 「上原くんの方こそ……その、ゲイだったりするんだろうか」 「い、いやいや、なんで、そう思うんですかっ」 「……ん~、少なくとも、今、こうして腕の中にいることに抵抗がないところから?」 「へっ!?」 「それに、そんな恥ずかしそうで嬉しそうな顔してたら、私だって期待してしまうだろう?」 「えぇっ!? お、俺っ、そ、そんな顔してますかっ!?」  やべぇ。俺の感情、駄々洩れって奴ですかっ。俺、一言も、ホワイトさんへの想い、言ってないのにっ。 「ああ、雄弁だね。こんな上原くんを、私が逃がすと思うかい?」  ニヤリと笑ったホワイトさんの顔は、悪い大人の顔をしてる。そして、まるで襲い掛かるような勢いで、俺の唇に噛みついた。

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