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第49話 七杯目(12)

 初めての大人のキスに、完全に翻弄されてる俺。ホワイトさんの熱い舌に、何度も嬲られ、食まれ、口の中が唾液で溢れかえる。息を切らしながら、俺は必死に縋りつく。 「んっ、はぁっ、んんっ」  漏れる声が、自分の声だと思えないくらい甘い。高校時代に少しだけ付き合った女の子としたキスは触れるだけで、こんな意識が飛びそうなキスなんかしたことはなかった。キスだけで、ぐずぐずにされてる俺って、情けない。  ホワイトさんに貪られながらも、それに必死に応えていた俺は、気が付けばソファの上に横たわっていた。ようやく、唇が離された頃には、いつの間にか流れていた涙で頬濡れていた。 「はぁ、はぁ……ホ、ホワイトさん」  息を整えながら見上げるホワイトさんの顔は頬が赤く染まり、あまりにも色っぽくて圧倒される。大きな手が涙を拭うように俺の顔を撫でる。 「今日は、真面目な話だけをするつもりだったのに」  眉毛を下げて笑ってみせるホワイトさんの言葉に、そういえば、さっきまで援助とか就職とか、そんな話をしてたっけ、とぼんやりと思い返す。でも、今の俺には、そんなこと頭に回らない。 「んっ」  シャツの隙間に大きな手が入り込む。脇腹をホワイトさんの手がなぞり、ゾクゾクと快感が這い上がる。少し筋肉の落ちて柔らかくなってしまってる俺の腹を撫でられ、声が抑えられない。だって、気持ちいいんだ。 「や、ホ、ホワイトさん……」  それが怖くて逃れようとする俺に、再び唇を重ねて、俺を抱え込む。瞼や頬、首筋に唇が触れ、何度も、何度も食むように落とされるキスに、意識が朦朧としてきてしまう。 「上原くん、私の名前はルーカスだよ……ルーカスと呼んでほしい」  耳元で囁く甘い声に、俺の唇は無意識にそのまま名前を呼ぶ。 「る、るーかすさっ……んっ、ふっ」 「私も、セイイチロウと呼んでも……?」  俺は、こくりと頭を上下させるしかない。 「嬉しいよ……セイイチロウ、このまま君を抱いてしまいたい」  その言葉が、ホワイトさん一色になってた俺の思考を冷静にする一滴となる。  ――抱く……?  ――だ、抱くっ!?  意味を理解すると、すぐに身体が強張る。確かにホワイトさん……いや、ルーカスさんのことが好きなんだけど、そ、そこまで頭が回ってなくて。体格的には俺の方が小さいし、そ、そういうことになるんだろうけどっ。  そんな俺の困惑に気が付いたホワイトさんは、困ったようにクスリと笑った。 「……大丈夫。今日はそんなこと、しない。でも、考えて。私は……セイイチロウのことが愛しい。好きだ。だから、君のためになるなら、なんでもしてあげたいんだ」 「ル、ルーカスさっ」  ルーカスさんの言葉が嬉しすぎて嬉しすぎて、言葉が出ない。 「だから、本当に前向きに考えて……」  そんな瞳で言われたら。 「ルーカスさん、お、俺も好きですっ」  俺の気持ちだって、抑えなんかきかない。ルーカスさんが目の前にいるのに、思い切り、告白の言葉が口をついていた。  それなのに、ルーカスさんは余裕で微笑んで、軽く唇に触れて、こう言った。 「うん、わかってた」    ……くっそー!  恥ずかしすぎて、俺は思い切り、ルーカスさんの身体をギューッと抱きしめて顔を隠してしまった。

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