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第53話 八杯目(2)

 広めのアイランドキッチンで、鼻歌交じりに俺はジャガイモの皮を剥いている。ゴロゴロとまな板の上に転がるジャガイモたち。今日は、肉じゃがを作るつもりだ。すでにボールには人参と玉ねぎが山盛りになっている。たくさん作って、残ったら和風カレーにでもしてしまおう。  この部屋は、前に連れて行ってもらったルーカスさんの部屋ではない。大学のある駅の隣の駅、その近くにあるマンションの一室だったりする。2LDKという間取りだけど、けっこう平米数が広め。大学生の男の一人暮らしだったら、ちょっと贅沢な感じなんだけど……実際は、俺とルーカスさんの二人暮らし。  復学するにあたり、てっきり、今まで通り、実家から大学まで電車で通うのかと思ってたのだけど、ルーカスさんが、援助の条件でもあるバイトのこともあるから、と、わざわざ部屋を借りてくれたのだ。  さすがに母さんも、そこまでしてもらうのは、と遠慮したけれど、どういうわけだか、結局、ルーカスさんに説得されてしまったらしい。説得というよりも、イケメンの笑顔に完全に流されたんじゃねーの?と、俺は思うんだが。  一方で、征史郎のほうは、何やら察するところがあるらしく、引っ越しの時に手伝いに来てくれたルーカスさんに向ける視線が、いやに厳しかった気がした。イケメンのルーカスさんに会えた母さんは、相変わらず、テンション高かったけど。  それでも、征史郎からは、あえて何も言ってこないところを見ると、様子を見ているってことなのだろう。俺の方からも、二人には何も言えていない。  復学するまではフルでシフトに入ってたお陰で、俺もそれなりにカフェの店員っぽくなれた気はする。他のスタッフも、同じ大学の後輩もいたり、けっこうすぐに馴染むことが出来た。これで来月からは、再び大学に通うことを考えると、ルーカスさんからの援助に見合うよう、頑張らなきゃいけない、と思う。  今日はバイト中にルーカスさんが顔を見に来たけれど、ちょっと話しただけで、すぐに本社へと戻っていった。ルーカスさんは今、店舗ではなくて、本社でちゃんと日本支社長としての仕事をしているらしい。  ショッピングモールのカフェにいたのは、オープンしたばかりの店には半年から一年の間は自ら店舗に立つ、というルーカスさんの仕事の拘りがあったらしい。その間、支社長の仕事は妹さん(バツイチ、子供あり)に任せてたらしいんだけど、新店が出来るたびにそうなるから、いい加減にいてくれ、と言われてたらしい。  今回、支社長業務に専念することになったことで、一安心したそうだ。これで、子供との時間がとれるようになるって。どんだけ、ルーカスさん、妹さんを働かせてたんだろう。代わりに、本店で店長をしてた弟さん(既婚、子供なし)が、新店の担当をすることになったらしい。

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