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virgin suicide :想いが重なる夜

 現場から戻り、先程の事件の捜査会議が、もうすぐ行われようとしていた。    仮眠室に下げられている使用中のプレートを、カタンとひっくり返して未使用にし、勢いよく扉を開ける。 「山上先輩、起きて下さい! 時間ですよ~」  俺の声に、ピクリとも動かない。仕方なく中に入り、山上先輩の耳を覗いて見た。 「やっぱり、耳栓してるし」    徹夜明けの疲れている体で、現場に行っていた。だからこそ、短時間でも安眠すべくの耳栓。    それを外し、揺さぶりながら声をかけると眠そうな顔をして、ぼんやりしたまま俺を見上げる。 「あと、五分だけ……」    そう言って俺の腰に、ぎゅっと抱きつく山上先輩。 「ダメですよ。もうすぐ会議、始まるんですから」 「じゃ、あと三分……」 「もう――」    この人のワガママは時々可愛くて、どうしようもなくなる。    苦笑いしながら、抱きついてる山上先輩の頭を撫でようと、右手を伸ばしかけた瞬間、 「ふああぁ、歳だなぁ。夜勤明けは堪えるわ」    突然、扉を勢いよく開け放ち、デカ長が大きな欠伸をしながら、中に入って来た。    俺はフリーズしたままデカ長をじっと見て、デカ長は細い垂れ目を大きく見開いたまま、俺たちの姿を見つめる。   「お前たち……何、やってるんだ?」   デカ長の愕然とした様子に、うわぁとパニクった。当の山上先輩は完全にデカ長をスルーして、俺に抱きついたままをキープ。    デカ長の言葉は、これから会議が始まるというのに、こんなところで何をやってるんだという意味だと、頭ではしっかり理解していた。    なのに―― 「あの、その、えっと……俺たち、愛し合ってるんです!」    パニクったとはいえ……何を口走ってしまったんだろ。  思わず、口元を右手で隠してしまった。その台詞に山上先輩が、いきなりガバッと起き上がる。    機敏に起き上がり、ビックリ顔している俺の肩にがしっと両手を置いて、ゆさゆさと激しく、体を揺さぶってきた。 「水野っ! 僕のこと、愛してるのか!?」  一重瞼の下にある熱を帯びた瞳が、俺を捕らえて離さない。ダブルでヤバい状況ですよ、これ…… 「お二人さん、揉めてるトコ悪いんだが、捜査会議が始まるんじゃないのかね?」 「捜査会議!? そんなのクソ食らえだよ。僕のヤマは、今は水野だからっ!」    ひ~、デカ長の助け船を拒否った。 「お前なぁ。ここは皆が使用する仮眠室だぞ、ラブホじゃねぇ~んだっ! それか、誰も入れないように、プレートを使用中にしとけ!」 「すみません、本当にすみませんっ!」    俺はデカ長に頭を下げまくるしか出来なくて、顔を赤くしたり青くしたり、大忙し状態。 「俺を無視した山上もアレだが、水野もすげぇことを言うんだな。一瞬、出て行こうとしたぞ、俺」  怒ったと思ったら、もう笑ってるデカ長。コロコロ変わる表情に、正直ついていけない。 「とにかく。お前らが仲が良いのは分かったから、急いで捜査会議に行けや。俺は寝る……」  アクビを噛み殺し、左手でシッシと俺たちを追い払う仕草をした。    内心、納得いってないであろう山上先輩は俺の袖を乱暴に掴んで、仕方なしに会議室へ苛立ちながら向かったのだった。

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