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virgin suicide :想いが重なる夜
***
先輩方と現場から戻り、先程の事件の捜査会議がもうすぐおこなわれようとしていた。仮眠室に下げられている使用中のプレートを、カタンとひっくり返して未使用にし、勢いよく扉を開ける。
「山上先輩、起きてください! 時間ですよ~」
大きな声をかけたというのに、ピクリとも動かない。仕方なく中に入り、山上先輩の耳を確認してみる。
「やっぱり、耳栓してるし」
徹夜明けの疲れている体で、現場に行っていた。だからこそ、短時間でも安眠すべくの耳栓。それを外し、揺さぶりながら声をかけると眠そうな顔をして、ぼんやりしたまま俺を見上げる。
「あと、五分だけ……」
そう言って俺の腰に、ぎゅっと抱きつく山上先輩。
「ダメですよ。もうすぐ会議が始まるんですから」
「じゃ、あと三分……」
「もう――」
この人のワガママは時々かわいくて、どうしようもなくなる。苦笑いしながら、抱きついてる山上先輩の頭を撫でようと、右手を伸ばしかけた瞬間だった。
「ふああぁ、歳だなぁ。夜勤明けは堪えるわ」
突然、扉を勢いよく開け放ち、デカ長が大きな欠伸をしながら、中に入って来た。俺はフリーズしたままデカ長をじっと見て、デカ長は細い垂れ目を大きく見開いたまま、俺たちの姿を見つめる。
「おまえたち……なにやってるんだ?」
デカ長の愕然とした様子に、うわぁとパニクった。当の山上先輩は完全にデカ長をスルーして、俺に抱きついたままをキープ。
デカ長の言葉はこれから会議が始まるというのに、こんなところでなにをやってるんだという意味だと、頭の中ではしっかり理解していた。それなのに――。
「あの、その、えっと……俺たち、愛し合ってるんです!」
(うおっ! パニクったとはいえ……俺ってばなにを口走ってしまったんだろ)
思わず、口元を右手で隠してしまった。そのセリフに反応した山上先輩が、いきなり目を大きく見開いた。ベッドから機敏に起き上がり、ビックリ顔をしている俺の肩にがしっと両手を置いて、ゆさゆさと激しく体を揺さぶる。
「水野っ! 僕のこと、愛してるのか!?」
一重瞼の下にある熱を帯びた瞳が、俺を捕らえて離さない。ダブルでヤバい状況ですよ、これ……。
「おふたりさん、揉めてるトコ悪いんだが、捜査会議が始まるんじゃないのかね?」
「捜査会議!? そんなのクソ食らえだよ。僕のヤマは、今は水野だからっ!」
(ひ~、デカ長の助け船を拒否った……)
「おまえなぁ。ここは皆が使用する仮眠室だぞ、ラブホじゃねぇ~んだっ! それか、誰も入れないように、プレートを使用中にしとけ!」
「すみません、本当にすみませんっ!」
俺はデカ長に頭を下げまくるしかできなくて、顔を赤くしたり青くしたり大忙し状態。
「俺を無視した山上もアレだが、水野もすげぇことを言うんだな。一瞬、出て行こうとしたぞ、俺」
怒ったと思ったら、もう笑ってるデカ長。コロコロ変わる表情に、正直ついていけない。
「とにかく。おまえらが仲が良いのはわかったから、急いで捜査会議に行けや。俺は寝る……」
アクビを噛み殺し、左手でシッシと俺たちを追い払う仕草をした。
内心、納得いってないであろう山上先輩は俺の袖を乱暴に掴んで、仕方なしに会議室へ苛立ちながら向かったのだった。
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