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virgin suicide :想いが重なる夜4
***
「水野……おい、水野?」
耳障りのいいハスキーボイスが、心配そうな口調で俺を呼ぶ。快感に満ちた身体が重ダルくて、口を開くのも億劫だった。
ぼんやりしながら山上先輩の顔を見つめると、ぎゅっと強く抱きしめられた。
「なんて顔してるんだよ。まだ物足りないのか?」
「そそそ……そんな滅相もない、です……」
耳元で告げられる言葉に、赤面しながら答える。息吹きかけながら耳元で言うのは、絶対に確信犯なんだろうな。
俺の挙動不審な様子を見て、山上先輩はププッと吹き出しながらそっと腕枕をしてくれた。
「水野ってさ、どんな女が好みなんだ?」
「どんなって。えっと?」
唐突な話題転換に、頭がついていかない。いったい、なんなんだろう?
「僕はどちらかというと、スレンダー系のかわいい感じのコが好み。はい、次。水野の番」
「うーん、そうだなぁ。俺はむちっとした感じで、ふわふわっとした感じのコかなぁ」
「ほー、なるほどね。水野の好みはグラビアアイドルみたいな、むちむちっとした体をしている、天然系の女のコが好きなんだ」
自分から話をふったクセに、なぜだかすっごく不機嫌になる山上先輩。
「だって、自分にはないでしょ? こうむちむちっとしたモノが。安心しません?」
「僕はスレンダーが好きだから、肉の塊に興味ない。安心とか意味不明」
言いながら口を尖がらせる。正直、この態度が意味不明だよ……。
「どうせ僕は水野の好みみたいに、むちっとしてませんよ……」
俺が困った顔をすると、山上先輩は小さな声でボソッと呟いた。まったく、自分からネタを振ったくせに。
「そうですね。山上先輩は安心感ゼロだし」
「ちょっ、おまえ。僕にケンカを売ってるのか?」
小さな呟きにしっかり答えながら、ニッコリとほほ笑んでやった。山上先輩はそんな俺を腕枕しながら、明らかに怒った顔で睨んでくる。
「だって山上先輩の傍にいると、ドキドキが止まらないから安心感がないんです」
「水野……」
「どうせ女の好み聞いたあとで、男の好みを聞く予定なんでしょ? 俺なりに推理してみました」
「……どうしてわかったんだ?」
至極おもしろくなさそうに言う山上先輩。なにを言っても、機嫌が悪くなりそうな雰囲気を感じた。
「う……ただ、なんとなく。一緒に仕事してると読めちゃう、みたいな?」
「じゃあ今から僕がしたいコト、口に出して言ってみろよ」
「…………」
熱っぽい一重瞼が、俺を欲しいと語っている。わかっているけど、自分からは言いにくい。だって、ものすごくハズカシイ。
山上先輩は真っ赤になっている俺の顔を、してやったりな顔で見つめる。
「じゃあ、僕の好きな男は誰でしょう?」
冗談めかした口調で言いながら空いてる手で、俺の左太ももを下から上へ、つつつと触っていく。そして俺の……。
「……やっ!」
「水野って見かけによらず、エロいんだな。まだなにもしてないのに、もう」
「だって、それは山上先輩が――」
「嬉しいよ。性格同様に、身体が鈍感だったら困ってしまう。ま、どっちにしろ、水野を好きなことには、変わりないんだけど」
「俺が言おうとしたのに……山上先輩が変なことをするから」
今度は俺が、口を尖らせる番。
「そんなかわいい顔してると、今すぐ襲うぞ?」
笑いながらチュッと、触れるだけのキスをした。
「襲わないでください。お互い明日、仕事なんだから。しっかり寝ないと、支障きたしますよ」
「大丈夫。適度な力加減で襲う。仕事中に寝たら、僕がぶん殴って水野を起こしてやるって」
「なんなんですか、もう……」
(――それって、全然フォローになってないよ。)
「で、水野の好きなヤツ、誰なんだい?」
俺が目を逸らせないように、山上先輩の両手でしっかり顔をホールドされてしまった。さっきだって、たくさん言ったハズなのに、まだ足りないのかな?
「髪は長めのストレートで、顔は面長。切れ長のキレイな一重瞼に、通った鼻筋。毒舌吐く唇は、薄いピンクのバラ色をしてる。性格はムチャぶりが多くて、周りに苦労させてる問題児。好きな人には、一途な感じかなぁ」
「後半すごく、僕をコケにしてないか……ホントに酷い男だな」
「そんな達哉さんのことが、俺は好きなんです。だから、その……」
「僕は愛してる。すっごく愛してるんだよ、政隆。どうしようもないくらいに」
山上先輩のサラサラな前髪が、俺たちの熱いキスを隠す。鼻腔をくすぐる、甘い花の薫りにクラクラした。山上先輩の声が、薫りが……その存在が、俺をどんどん刺激する。それだけで俺は、どうにかなってしまいそうだった。
室内に響くふたりの荒い息遣いと唾液の絡まる水音に、たちまち体温が上昇していく。俺だって気持ちを、しっかり告げたいのに……。
貪るように塞がれた唇からどんどん山上先輩の想いが流れ込んできて、今にもパンクしそう。
さっき溺れてくださいと言ったけど、俺の方が溺れてる気がする。今まで我慢していた分、想いがどんどん膨れ上がって、山上先輩の想いに絡まっていく。
「もっと……ほし、い。山上せんぱ……」
キスの合間にやっと告げた言葉を、山上先輩は一重瞼を細めて愛おしそうにじっと俺を眺める。
「まったく。僕の水野は貪欲だなぁ。そんなふうに求められたら、適度な力加減ができないじゃないか」
「…っ……だって」
「わかってる。わかってるからおまえの気持ち、僕も同じだから……。今まで傷つけた分、繋がっていたいよな」
切なげに告げられた言葉に、俺は目を潤ませながらコクンと頷いた。
お互い想い合ってるのに、傷つけあった俺たち。一番近くにいたのに、遠い存在だった。だからその分だけ繋がっていたくて、一晩中求め続けた。
このしあわせが、ずっと続けばいいのに……だって幸せを感じるのって、本当に一瞬だから――。
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