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virgin suicide :守りたい
「これで、よしっと!」
お互い想いを告げてから、数日経とうとしていた。
仕事の忙しさは相変わらずだったけど、職場恋愛なので、逢えなくなることはないし、仕事が終わってから、どちらかの家で一緒に過ごすのが、日常となっていた。
実はさっきまで、山上先輩と俺の家にいたけれど、進みの悪い自分の仕事をさっさと片付けるべく、早めに出社して頑張っている最中。
ミスがないか最終確認していると、大きな手が労わるように、優しく頭に乗せられた。その大きさと温もりで、誰かすぐに分かってしまう――
嬉しさを噛み締めながら、上目遣いでその相手を見上げた。
「おはようございます、山上先輩……」
「おはよ、水野。少しは進んだか?」
眠そうな目をして、わざわざ俺の顔をじっと覗き込む。
「はい、すべてのチェックが終わったら、本部に提出してきます」
ドキドキを隠すべく、思わず早口で言ってしまった。
イヤだな……さっきまで一緒だったのに、相変わらず心拍数が上がるなんて。
「悪いけどその足で、隣のコーヒーショップに行って、今日のコーヒー頼むわ。勿論、お前の金でな」
坊っちゃまのくせに、変なところにケチ臭い。とは言えない――
「分かりました」
「水野といると、万年寝不足になるよ……ホント参ったなぁ」
参ったなぁと言いつつ、その口振りがどこか嬉しそうで、つられて俺が笑っていると突然、何かを放ってきた。
「わっ! 危ないじゃないですかっ」
慌ててキャッチしたのは、山上先輩のスマホ。
「何、呑気に笑ってるんだ。ムカつくなぁ、お前」
苦笑いしながら、俺の耳元でコソッと話す。
「暇そうな水野くんに、僕からのミッション。そこに載ってる女の名前をデリートしないと、浮気しちゃうかも?」
俺がギョッとして山上先輩の顔を見ると、ニヤリと笑ってから、くるりと背を向けた。
「ちょっと、関んトコに行ってくる。是非とも頑張って、こなしてくれたまえ!」
右手をヒラヒラ振って、行ってしまう背中に、アッカンベーをしてやった。
ムカつくのは、こっちだよ……何だか都合のいい男みたいじゃないか。断れないの分かってて頼むんだから、もう。
「さっさと片付けないと、自分の仕事が進まなくなってしまう……」
せっかく早朝出社して、仕事をこなしたのに、なぜか倍になって仕事が舞い込むとは。
俺は慌てて、デスクにかじりついたのだった。
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