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virgin suicide :守りたい6

***  ねっこりとした確認作業が終わり、一緒にお風呂に入ってからやっと人心地がついた。 「プハ~ッ! 風呂上がりのビール、マジで最高っ!」  山上先輩と仲良く乾杯をして、一気にビールを喉に流しこむ。ほろ苦さが喉に染み渡ること、この上ない。 「山上先輩、あの……」    意を決してやっと話し出す俺の唇に、山上先輩は右手人差し指をそっと当てて、やんわりと俺の話を止めた。 「聞きたいことがあるのはわかる。でも悪いな。僕がやってる仕事、トップシークレットなんだ」  心配かけた上に泣かせてしまって……と続け、済まなそうに言う。 「それなら、しょうがないです。だけどこっそりでも、なにか俺にできることがあれば、その……頼ってください」  俯きながら言うと、ぎゅっと強く抱きしめられた身体。 「水野が来る前から、この仕事をやっていたんだけどさ。すごい孤独で嫌な仕事だと思いながら、なんとかやってきたんだ。嫌ながらも僕の信念を貫くために、頑張っていたんだけど――」  山上先輩は俺の左肩に額を乗せて、苦しそうに話す。 「水野が来てから不思議と力が湧いて、めちゃくちゃ頑張れた。おまえが傍にいるだけで、僕はなんでも頑張れるんだよ」 「俺も……頑張ってる山上先輩が傍にいるから、全力で頑張ろうって思います」  ほほ笑んだ俺の頬を、山上先輩は優しくそっと撫でる。あったかい手のひらがとても心地よくて、目をつぶった。 「僕のやってる仕事のせいで、水野が危険な目に遭うのなら……殺していいか?」 「はい――?」  頬に触っていた右手をゆっくり首に移動させると、少しだけ力を入れる。 「他の誰かに殺られるくらいなら、僕がおまえを殺していいか?」  笑えない冗談を言ってると思い、閉じていたまぶたを開けて山上先輩の顔を見たら、えらく真剣な目で俺を見つめている姿があった。 「おまえを殺して、僕も死ぬ……」  そう言ってまた首を触っている手に、ぐっと力が入った。俺はその手に、自分の右手をそっと被せる。 「山上先輩に殺られるのは本望ですけど、ふたりして死んじゃったら、この間誓った約束が果たせないじゃないですか。一緒に、しあわせになろうって」 「政隆……」  首を触れている手から力がすっと抜けて、俺の手をぎゅっと強く握りしめた。 「痛い思いをしてつけた、このエンゲージリングに誓ってください。一緒に生きていくって」  俺は山上先輩の左手薬指に、優しく口づけをする。 「孤独で危険な仕事をしている貴方を、俺なりに支えます。足手まといにならないように、頑張って強くなります。だから……」  涼しげな一重瞼の目が、ほんのりと赤くなったように見えた。    なにも言わずに俺を強く抱きしめてくれる山上先輩の身体を、同じように強く抱きしめ返して、背中をポンポンしてあげる。 「ありがとう政隆。僕も強く……なるよ」  いつもより掠れた声で告げるセリフに、俺は頷くのが精一杯だった。    そんなふたりの強い誓いを打ち砕く魔の手がゆっくりと忍び寄っているなんて、このときは思いもよらなかった。だって今の俺たちは最高にしあわせ過ぎて、周りが全然見えていなかったから――。

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