26 / 123

virgin suicide :守りたい8

***    向かった捜査本部で、頼まれたデスクワークを黙々とこなしている最中だった。 「水野、ちょっと抜けるわ。タバコ吸って、頭をしっかりと冷やしてくる」  さっきの怒りがどうしてもおさまらない怒りまくりの山上先輩は、機敏な動作で本部から出て行った。 「ごめんね、山上先輩……」  俺が呑気に、キツネ顔の男と喋ったりしたから。まさか、デスクを荒らした犯人だったなんて、思いもよらずに。 「山上はいるか?」    上座から本部長が、山上先輩を捜している。 「すみません。今ちょっと、席を外してますっ!」  俺は片手を上げて大きな声で言うと、本部長が靴音を立ててこちらに駆け寄って来た。 「さっき、提出してもらった書類なんだが……ここ、珍しく抜けがあって」  俺が覗き込んで確認してみると、普段ならしないような、ちょっと変わったミスをしていた。怒りを心に抱えたまま、仕事をしていたせいかもしれない。 「さっき見た資料があれば俺でもできますけど、修正を施しましょうか?」 「悪いが、急いで仕上げてくれ」 「わかりました」  書類を受け取ると、本部長が肩に手を置いてきた。ずしっとした重みのあるそれに、ちょっとだけ緊張してしまう。 「最近、めっきりと頼もしくなったな。期待しているよ」  一言告げたと思ったら、颯爽と元の場所へ戻って行く。  山上先輩のおかげで、俺は強くなれている。以前よりもしっかり仕事ができるようになったことに、きちんと感謝しなきゃいけないよね。    山上先輩がさっき出て行った扉を見てから、急いで資料を取り出し、書類の直しにかかった。こうしてリカバリーできるようになった自分を、誇らしく思いながら――。

ともだちにシェアしよう!