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Imitation Black:引き寄せられる距離2

***  何かが起こりそうな予感がする。って思ったのにな……  帰り道は他愛無い話をしただけで、ごく普通に帰った俺たち。友達同士なのだから、当然のことだけど。    勉強は、山上ん家ですることになった。    高級住宅街の中にひと際大きな家がドドーンとあって、門扉には監視カメラが備え付けられている自宅の様子に、若干ビビってしまう。  普通の家じゃあり得ないぞ。 「山上の親父さんって仕事、何してるんだ? 随分厳重だな、もしかしてコッチの人?」  言いながら自分の頬に、人差し指で線を引いた。それを見て笑いながら、首を左右に振る。 「表向きはどこかの企業の社長ってことになっているけど、実は警察関係者なんだ。出世のために暗躍してるトコは、正直コッチの人たちとやってることと、変わりないと思うけどな」  同じように右頬に細長い人差し指で、スッと線を引く。    その動作だけでも妙に色っぽくて、無駄にドキドキした。本当にコイツの傍にいると、寿命がいくつあっても足りない気がする。 「なるほど、それで厳重なんだ」 「親の仕事の件、ナイショな」  形のいい唇に人差し指を当てながら、インターフォンを押す。軽やかな呼び出し音が鳴った。 「ただいま、ヨネさん。今日はクラスメートが一緒なんだ」  今開けますね。という声が聞こえてきて、門扉のロックが解除され、家から年配の女の人が、にこやかな笑顔で出迎えてくれる。 「お帰りなさい、達哉さん。クラスメートと一緒なんて、珍しいわね」 「こんばんは! クラスメートの松田って言います。お邪魔しますっ!」  山上の家へ入るのに粗相をしてはいけないと考え、ペコリと丁寧にお辞儀をした。 「プッ、まんま体育会系って感じ」  ボソリと呟く山上と、まぁまぁご丁寧にどうもと、同じようにお辞儀をした年配の女の人。 「彼女は長年、ウチでお手伝いしてくれてるヨネさん。僕のお母さんみたいな人なんだ」 「お母さんじゃなくて、お姉さんと言って欲しいわね。ふたりとも、お腹すいたでしょ?」  お姉さんは、かなりつらいのでは……と思いつつ山上の顔を見ると、やれやれといった感じで、肩を竦めていた。 「松田、夕飯食べて行けよ。いつもひとりきりで寂しかったんだ」 「迷惑じゃなければ、ぜひ。実はお腹、ペコペコなんだ」  苦笑いしながら、自分のお腹をさすった。 「ヨネさんの美味しい手料理、僕以外に披露出来て、とても嬉しいよ。さ、どうぞ」  柔らかく笑う山上の笑顔は、学校で見せるものとは違って、とてもナチュラルだった。    こういう顔もする山上を、ますます好きになったけれど、悲しいことにその想いは、絶対に報われない――    そんな切ない想いをひた隠しにして、山上邸にお邪魔した。

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