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Imitation Black:引き寄せられる距離4
***
次の日の朝、トボトボ教室に入っていくと、ずらっと級友たちに囲まれた。
「お前昨日、山上と一緒に帰っただろ? 何もしてないよな?」
朝の挨拶すっ飛ばして、マシンガンのように質問してくる。それはワイドショーでよく見る、芸能人とリポーター状態だ。
あからさまなため息を、一つだけついてから、
「ただ一緒に帰っただけだ。くだらないことで、色めき立つなよな」
「だって、よぅ」
「相手はあの山上なんだぞ。鉄壁って顔に書いてあるだろ。疑うなら、本人に直接聞いてみろ」
俺は不満顔した級友たちの隙間を抜け、やっとこさ自分の席に着く。
左斜め前方には、クラスのヤツと楽しそうに談笑している山上がいた。
いつもと変わらない朝……昨日見た、あの衝撃的な情事がなければ、心に影が差すことはなかったのに。
「松田、おはよう」
唐突に声をかけてきた笑顔の山上に、ドキッとしながら視線を向けた。
「おはよ……」
「昨日は有難うな、すごく助かったよ」
他の奴らに聞こえるような大きな声で、なぜか言う。
「いや、あれは」
「謙遜するなよ。荷物持ってくれて、本当に助かったから」
ふわっと微笑んでから向きを変え、先程喋っていたクラスメートと、話を再開させる。
リポーターまがいをした級友たちは、なぁんだといった雰囲気で、散り散りに去っていった。
自分のことをズボラだって言ってたクセに、しっかり気遣いが出来るじゃないか。
俺は机に頬杖をついて、山上のキレイな横顔を、ぼんやりと眺めた。
才色兼備っていうのは、こういうヤツのことをいうんだろうな。
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