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Imitation Black:引き寄せられる距離5
***
昼休み屋上で弁当を食べた後、移動教室に備えて、早めに教室に戻った。
「何だ、これ?」
机の上には、俺の物ではないファイルが一冊置いてあった。パラリと表紙を捲ると、手書きで英語の問題が書いてある。
それが三ページ程続いて、最後には(連絡)と書かれていた。
(連絡)
僕の都合で悪いけど、次の勉強会は金曜でお願いします。
先に帰って、自宅で待ってるから。それまでにこの問題は宿題。
次回の勉強会がサボれないよう、松田のロッカーに僕の鞄を入れておく。 山上
「山上なりの優しい気遣い、か……」
一緒に帰ると今朝のような騒ぎになるから、先手を打ってきたな。しかもサボれないよう、絶対山上ん家に行かなきゃならない、小道具付きとは。
周りを見渡したが、当の本人は不在で、教室にはいなかった。
まだ昼ご飯を食べているのか、移動教室に行ってるのか、あるいは実習生とふたりきりで過ごしているのか……
好みだからと、簡単にキスをする山上。そのくせ俺とのことは、慎重に対処するその行動力が、正直納得いかない。
ぎゅっとファイルを握りしめる。
山上を脅した俺に対して、ここまでしなくてもいいハズなのに――
山上の律儀さが逆に、俺の胸をシクシクと痛ませた。
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