44 / 123

Imitation Black:本当の姿3

*** 「何で……僕は、泣いているんだろう?」  叩かれた頬の痛みよりも、押し潰されるようにしくしくと胸が痛い。今まで味わったことのない感覚に、ぎゅっと顔を歪ませた。 「そもそも好きの違いが、さっぱり分からない……」  比重じゃなければ、何だというのだろうか? LikeとLoveの違いみたいな? それとも何かが、違う気がする。 「人を……好きになったことがないから、全然分からない――」  芸者だった母親を愛人にして、僕を産ませた父親。六歳のときに母親が亡くなり、父親の監視下に置かれ育てられた。  自宅にはひとり息子がいて、何かと比べられる日々。それがどうにも嫌で、優等生という仮面を被り、兄に対抗した。  そうすることで、自分の居場所を確保したかったから。愛されたかったから……なのに。 「そんな僕を、全否定するなんて。イミテーション……確かにそうだよな」  松田に素の自分を受け入れて欲しかった。アイツなら僕のすべてを分かってくれるって、そう思ったのに。 「また違う、ターゲットを捜せばいいだけの話じゃないか」  頬に伝わった涙を袖で乱暴に拭って、よいしょと立ち上がろうとしたのに、何故だか足元がふらついて、上手く立てなかった。 「大嫌いって言われたの、生まれて初めてだ……」  ぼんやりと呟いて、まとまらない思考を必死に整理する。  どんなに考えてもこのときは、まともな答えを出すことが出来なかった。

ともだちにシェアしよう!