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Imitation Black:切ない別離3
ウダウダ考えても始まらない。言ってしまった言葉は、取り消すことが出来ないから。
そう自分に言い聞かせ、今日一日を何とかやり過ごした。
余計なことを考えないよう放課後、部活にしっかり精を出した俺。
教科書類を入れた鞄を取りに、二階にある教室へと足を運ぶ。あまりに頑張りすぎたためか、歩くことすらダルくて、体を引きずるように自分の席にたどり着いた。
「はぁ、もうやってらんねぇ……」
ポツリと呟き、よいしょと肩に鞄をかけた瞬間、唐突に目眩がする。
ぐるぐる回るような視界に気持ち悪さを覚え、咄嗟に机へ腕を伸ばしたが、軽い机ではぐらついた体を支えることが出来ず、机もろとも無様に引っくり返った。
誰もいない教室に、ガラガラガチャンと派手な音が広がる。
「顔色悪いって言われたの、あながち間違いじゃなかったんだな」
目眩が治まってから、ゆっくり体を起こすと、右手に何かが触れた。
触った感触で、それが何か見なくても、はっきりと分かってしまう。
「どうして……こんなところに山上のファイル……あるんだよ」
俺のために、山上が英語の問題を作って渡してくれたファイル。今は山上が、持っているはずなのに。
不思議に思ってファイルをめくって見ると、新たに問題が十ページ書き加えられていた。倒れた机とファイルの位置を考えると、どうやら机の中に入っていたようだ。
もう実習生と別れたんだから、こんな余計なことをしなくたっていいのに。近づくなと言った俺に、こんなことしなくてもいいのに。どこまで律儀なんだよ……
『この問題が解ければ、学期末は大丈夫だと思う。頑張って下さい』
最後に書かれたメッセージが、涙で滲んで読めなくなった。
今日の休み時間、俺の顔を見て、不自然な笑顔をした山上。笑みを浮かべる前に泣きそうな顔、一瞬したよな……だから余計、不自然になったんだ。
「どうしてあんな顔したんだよ。俺のことなんて、好きじゃないくせに」
俺はファイルを、ぎゅっと胸に抱きしめる。
こんな風に、山上を抱きしめる事が出来たなら――
オレンジ色の西日が、悲しみに濡れた俺の心を暖めるように、そっと窓から差しこんだ。
(あの時と同じ西日なのに、どうしてこんなに切なくなるんだろう……)
山上の家に向かって、ふたりで並んでいるとき、似たような茜色をした西日が俺たちを包んでいた。
並んで歩く山上の後ろに、同じように影が仲良く二本並んでいて。俺は山上の影にそっと手を伸ばして、こっそり手を繋いたんだ。
「たったあれだけのことで、すっげぇドキドキしたのにな……」
嫌いになれる理由をたくさん探しても、好きだという壁には届かない。どんなにどんなに積み上げても、全然届かなくて。嫌いになれたら、ホント楽なのにな――
このとき、教室でひとりうな垂れる俺を見てるヤツがいるなんて、思いもしなかった。
俺の姿を見て、唇を強く噛みしめているなんて……
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