50 / 123

Imitation Black:切ない別離5

***  放課後、山上の席の周りにはクラスメートや他のクラスのヤツまで、大勢集まって来ていた。    それは持ち前の美貌の他に、人徳もあるから当然なワケで。  俺はというと、部活に行かなければならない時間になっているのに、自分の席に座ったまま、一歩も動くことが出来なかった。  何もせず他のヤツらと一緒に、どこかへ行かせていいんだろうか? 偽った心をそのままにして、山上を東京に行かせていいんだろうか? (人ごみに紛れて見えない、山上の横顔……いつもならここから、眺めることができるのに) 「山上っ!」  気がついたら俺は立ち上がって、大勢の人だかりをかき分け、山上の元へ向かっていた。必死な俺の顔を見て、山上も立ち上がる。  だけどあまりの大人数にお互い、簡単に近づくことが出来なかった。 「松田?」 「あんなっ……あんな難し過ぎる英語の問題、作るなよな! 思わず一生懸命やっちゃって、全部終わらせてしまったじゃないか」 「あの量を、一晩でやっつけたのか?」 「ああ、だから採点して欲しいんだ。お前に……」  俺と山上は視線を絡ませる。    それはたった一瞬の出来事だったのに、イミテーションじゃない笑みで微笑んだ気がした。 「ちょっ、待てよ松田。何、山上をひとり占めしようとしてんだ」  クラスメートの文句に、ムカッときて返事をしようとしたら、 「みんな、ごめんね。送別会の話してくれているのに。だけど僕は……最後に好きな人と、一緒に過ごしたいんだ。悪いけど、行かせてくれないかな?」  言いながらペコリと、丁寧に頭を下げる。  山上の言ってのけた台詞に、顔を青くしているヤツ数名、魂が抜けた顔をしているヤツ数名――  その後、無言の人だかりから、まっすぐな道が出来ていく。    頭を上げた山上は、ゆっくりとその花道を歩き、俺の傍までやって来た。  その顔は妙に凛々しくて男気が溢れている、ブラックな山上の裏の顔だったものだから、ときめかずにはいられなくて。 「行こうか、松田」 「あ、ああ……」  そんな山上に思わず見惚れていると、 「見とれ過ぎだよ、バカ。置いてくぞ」  少し照れてから涼しげな一重瞼をキリリとさせ、ひとりでさっさと教室を出て行ってしまった。    誰かが、 「姫が、王子になった……」  そう告げたとき教室中から、感嘆のため息が漏れ聞こえたのだった。    最後までカッコ良過ぎるよ、山上。

ともだちにシェアしよう!