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Imitation Black:切ない別離5
***
放課後、山上の席の周りにはクラスメートや他のクラスのヤツまで、大勢集まって来ていた。
それは持ち前の美貌の他に、人徳もあるから当然なワケで。
俺はというと、部活に行かなければならない時間になっているのに、自分の席に座ったまま、一歩も動くことが出来なかった。
何もせず他のヤツらと一緒に、どこかへ行かせていいんだろうか? 偽った心をそのままにして、山上を東京に行かせていいんだろうか?
(人ごみに紛れて見えない、山上の横顔……いつもならここから、眺めることができるのに)
「山上っ!」
気がついたら俺は立ち上がって、大勢の人だかりをかき分け、山上の元へ向かっていた。必死な俺の顔を見て、山上も立ち上がる。
だけどあまりの大人数にお互い、簡単に近づくことが出来なかった。
「松田?」
「あんなっ……あんな難し過ぎる英語の問題、作るなよな! 思わず一生懸命やっちゃって、全部終わらせてしまったじゃないか」
「あの量を、一晩でやっつけたのか?」
「ああ、だから採点して欲しいんだ。お前に……」
俺と山上は視線を絡ませる。
それはたった一瞬の出来事だったのに、イミテーションじゃない笑みで微笑んだ気がした。
「ちょっ、待てよ松田。何、山上をひとり占めしようとしてんだ」
クラスメートの文句に、ムカッときて返事をしようとしたら、
「みんな、ごめんね。送別会の話してくれているのに。だけど僕は……最後に好きな人と、一緒に過ごしたいんだ。悪いけど、行かせてくれないかな?」
言いながらペコリと、丁寧に頭を下げる。
山上の言ってのけた台詞に、顔を青くしているヤツ数名、魂が抜けた顔をしているヤツ数名――
その後、無言の人だかりから、まっすぐな道が出来ていく。
頭を上げた山上は、ゆっくりとその花道を歩き、俺の傍までやって来た。
その顔は妙に凛々しくて男気が溢れている、ブラックな山上の裏の顔だったものだから、ときめかずにはいられなくて。
「行こうか、松田」
「あ、ああ……」
そんな山上に思わず見惚れていると、
「見とれ過ぎだよ、バカ。置いてくぞ」
少し照れてから涼しげな一重瞼をキリリとさせ、ひとりでさっさと教室を出て行ってしまった。
誰かが、
「姫が、王子になった……」
そう告げたとき教室中から、感嘆のため息が漏れ聞こえたのだった。
最後までカッコ良過ぎるよ、山上。
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