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Scarface:突然の出逢い4

***  コワモテの男に言われたからじゃないけど、俺の仕事は昴さんの身の回りの世話が中心だった。レストランの厨房でバイトしてたおかげで、料理が作れる俺を昴さんは大層気に入ったらしく、三度の飯をわざわざ自宅に帰って食べる始末。    正直、レパートリーはそんなにない。似たような物が続いているのにもかかわらず、文句を言わずに全部平らげてくれた。 「竜生の作る物は、なんでも美味いよ。味付けも俺の好みなんだよなぁ」  そう言って、嬉しそうに食べる。    普段褒められたり、誰かに必要とされたことがなかった俺は、この行為に激しく戸惑ってしまった。どんな顔で対処すればいいか、わからなかった。    困惑した様子の俺に、昴さんはクスクス笑って、いつも乱暴にぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。 「料理だけじゃなく、掃除や洗濯してくれてありがとな。帰ってきて部屋が綺麗だと、すっげぇ落ち着く」 「……他にすることないし、暇つぶしみたいなもんだし」 (すっかり主夫してる、自分が結構恥ずかしい――)    ソファの上で照れて横を向いた俺の体を、いきなりぎゅっと抱きしめてきた。 「わっ、なにするんだっ!?」 「心臓の音、聞かせろよ。この音を聞いてると、妙に安心するんだ……」 「わわっ!」  強引に、ソファの上に押し倒される俺。じたばたする両腕ごと強く、昴さんに体を抱きしめられてしまった。 「竜生元気だな、すっごい鼓動が早い」 「当たり前だろ。こんなワケのわからないことをされて、びっくりしてるんだから」 「今は元気でも、鉛の弾をぶち込んだら、一瞬で終わりなんだぞ。呆気ないものさ」 「……昴さん?」   (もしや今日は、そういうアブナイ仕事をしてきたんだろうか?)    昴さんの様子が、いつもと違う感じがした。疲れきったような雰囲気を、そこはかとなく漂わせている気がする。 「あったかい、竜生の体。本当に居心地が良いなぁ」 「昴さんもういい歳なのに、年下の俺に甘え過ぎじゃないですか?」  そういう俺も、昴さんの好意に甘えっぱなしなんだ。最初はイヤで仕方なかった家事すら、褒められ続けると、不思議と頑張れた。本当に人を使うのが上手い人だよ、だから幹部なのかもしれない。 「自分の家で誰になにをしようと、俺の勝手だ。好きにさせろ、今くらい」 「もうすぐ仕事の時間だけど、大丈夫ですか?」 「ああ? もうそんな時間か、早いなぁ。このまま昼寝したいっていうのに」  昴さんは仕方なさそうに起き上がり、済まなそうに俺を見降ろした。 「下敷きにして悪かったな、重かったろ? 顔、真っ赤になってる」 「窒息死寸前でしたから、正直大変でした」 「じゃあ今度は、おまえが上になればいい。そしたら苦しくないだろ?」 (またやらされるのか、これ……)  微妙な顔をすると昴さんは艶っぽく笑いながら、背広を肩に掛けた。    俺が同じことをしても全然、様にならないだろう。昴さんはなにをやっても格好良い、自然と目が奪われてしまうんだ。俺よりも9歳年上だし、いろんな経験がそうさせているんだろうな。 「いってらっしゃい、昴さん。気をつけて」 「今夜ベッドで、おまえの心音聞かせて?」 「そういうことは、キレイな女の人に頼んでください。わけのわからない変な趣味、俺にはないですから」  言葉でしっかり、丁重にお断りしているのに。 「俺は結構本気なんだぞ、これでも。おまえのその、キツい一重瞼に惚れたんだがなぁ」  その反抗心も含めてだがと笑いながら言って、颯爽と出て行ってしまった。    冗談なのか本気なのか全然わからない、昴さんの最後のセリフ。いつも通りのやり取りにため息を深くついて、昼食の後片付けをしたのだった。

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