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Scarface:貴方を守るために

 これが運命のタイミングになろうとは、このときの俺は思いもしなかった。 「なにか美味いモン作って、今すぐ持って来い!」  親父さんから自宅に電話が入ったので、いつも通りお口に合いそうな料理を手早く作り、急ぎ足で事務所に持って行った。 「失礼しまーす!」  親父さんの部屋のドアをノックして、いそいそ中に入ると、そこには昴さんをはじめ、コワモテの幹部の方々が全員集合していた。その見えない圧迫感に、自然と顔が引きつった。 (うわっ、すっげぇ緊張する。てかなにか見えない壁っていうか、威圧感があるっていうか……)  何度かこういう場面に、遭遇したことはあった。しかし今のような大人数の幹部の方々から放たれる、ピリッとした感じはなかった。もっと砕けていたというか、アットホームっていうか。真逆の場の空気に圧倒され、自分がどうしていいかわからなくなる。    もしかして、大事な打ち合わせをしている最中なのだろうか?  そう思いながら、恐るおそる親父さんの目の前に、作ってきた料理を並べた。デスクには写真が2枚置かれていたので、邪魔にならないように皿を配置する。 「シャムも見てみるか、コレ」  親父さんは俺の名前を知ってるクセに、なぜかシャムと呼んでいた。他の人間が俺を名前で呼ぶのを、昴さんが気に食わないからというのが、理由なんだそう。  見せてもらった写真は、俳優のような二枚目のイケメンが映ってる写真と、色が白くて、ほっそりした優男が写っているものだった。 「これは、どなたですか?」 「山上と山上が可愛がってる相棒」  その名前を聞き、思わず息を飲む。これが噂の山上 達哉。思ってた以上にカッコイイじゃないか。しかも可愛がってる相棒って、愛棒だったりして?    横目でチラリと昴さんの顔を見ると、なぜか難しそうな表情をしていた。山上の顔、俺が見るのイヤなのかもしれないな――。    咄嗟に判断して、ありがとうございましたと一言告げ、テーブルに写真を素早く戻す。 「最近、組のことをこのふたりが嗅ぎ回ってるみたいでよ、結構邪魔なワケなんだ」 「はあ……」 「そこで昴が山上の相棒に、ちょっと脅しをかける打ち合わせを、今まさにしていたところだったんだ」 「昴さんが……」  わざわざ幹部の昴さんが手を下すなんて、もしかして……いや、まさか――。  考えたくない想いが、ぐるぐると胸を駆け巡る。 「あの……、脅しくらいなら、俺にできませんか?」 「竜生っ!?」  俺の思いつきの申し出に、昴さんが慌てて口を挟んだ。親父さんは嬉しそうに拍手する。 「さっすが昴の飼ってるシャム猫だ、いいこと言うじゃねぇか」 「親父っ! 竜生のヤツには、荷が重過ぎますっ!」  声を荒げる昴さんを無視して、俺の顔をじっと見る親父さん。 「昴のためなら、命張れるもんな」 「もちろんです!」 「じゃあ決まり。昴、チャカの使い方教えておけよ。概ね決定したので解散、それぞれの持ち場に着いて、引き続き頼む」  親父さんがデスクを強く叩くと、他の幹部たちが散り散りになって、部屋から出て行く。残ったのは俺と、もの凄く怖い顔をした昴さんだけだった。 「竜生、親父とふたりきりで話がしたいから、席を外してくれないか?」 「わかりました、失礼します」  ふたりに向かって丁寧に頭を下げ、慌てて扉を閉めた途端に耳に聞こえる怒号。 「ふざけんじゃねぇぞ、このタヌキ親父っ!」  昴さんの怒鳴り声が扉の外まで響いて、俺を震え上がらせた。 「人の話、立ち聞きしてんじゃねぇって。早く出てけ、クソガキ」  俺の傍にいた怖いお兄さんが、強く睨みながら言う。   (ううっ、気になっても出て行かなきゃならない)  両手を胸の前に抱えながら、そっとその場をあとにしたのだった。

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