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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい6

*** 「アーサー様は間もなくお見えになりますので、もう少々お待ちくださいませ」  そう言って執事がいなくなってから、ベニーと一緒に気になる部分をチェックした。  案内された部屋は、大きなお屋敷には似つかわしくない、こじんまりとしたところだった。部屋に置かれた装飾品がどこか色あせて見えるのは、年代物のせいなのだろうか。  舞踏会の会場に飾られていた煌びやかなものとは、真逆のものばかり。だが――。 「ここは、アンティークルームみたいですね。この絵画とあちらに飾られている絵画のタッチと、隅に書かれた名前の筆跡を見比べてみます」 「こういう美術品については、さっぱり疎くて。助かるよ、ベニー」 「ああ思った通り、同じ作者でした。だとすると、この置物も――」  執事として白手袋を着けているベニーは、ここぞとばかりにあちこちを調べはじめた。細かいところは彼に任せて、僕は目についたところから指摘してみる。 「この部屋と繋がっているらしい扉は、鍵がかかってる。僕らに覗かれたくない部屋だから、きっちり鍵をかけたんだろう」  ドアノブをがちゃがちゃ動かしながら呟くと、それを聞いたベニーは指摘した扉の向かい側にある、もうひとつの扉のドアノブを握りしめた。 「こちらの扉は、鍵がかかっておりません。中の様子は……。ここと同じ類の部屋のようです。金色の間という名前がしっくりくるような品が、たくさん置かれております」  ベニーは肩を竦めながら、僕に説明する。その表情は、芳しいものではなかった。僕の趣味と同じく、華美なものを嫌う傾向にあるせいかもしれない。  大きく開け放たれた扉から顔を覗かせると、ベニーの言った通り金箔で装飾された品や金塊などが、ここぞとばかりに飾られていた。それらが照明の光を受けてギラギラ煌めく様子は、目に眩しすぎてどうにも落ち着かない。 「アーサー卿が僕の好みを理解しているとは思えないが、あっちの部屋に招かれなくて良かった」 「ええ、本当に。これだけ目に眩しいものに囲まれていては、注意が散漫する恐れがございます。とりあえず、提供されるお飲み物にはご注意ください」 「分かった。シャンパンの二の舞を踏まないように、気をつけることにする」 「それと――」  何かを言いかけて言葉を飲み込むベニーは、凍りついたように固まってしまった。 「ベニー、どうした?」  袖を引っ張って揺さぶったというのに、それを無視して落ち着きなく首を動かす。 「ベニー!」 「一瞬でしたが、微かに匂いを感じたんです。野菊のような花の香りが……」 「だけどこの部屋は黄金ばかりで、草花はひとつも飾られていないぞ」  黄金の装飾品が溢れる部屋に足を踏み入れ、改めて周りを見渡しながら、ベニーが指摘した花の匂いを追いかけてみた。 「やっぱりそれらしきものはおろか、造花すらない」 「ええ、ですから違和感がございまして」  ベニーも僕と同じように鼻をくんくんさせながら、室内をあちこち眺める。 「男爵、何かお気に召すものでもあったのかい?」  突然背後からなされた問いかけに、びくっと躰が竦んでしまった。 「こっ、これはアーサー卿、勝手に失礼いたしました。まばゆい装飾が施された珍しい品ばかり置かれていたものですから、思わず引き寄せられてしまった次第です」 (背中に冷や汗を感じながら薄ら笑いを浮かべて、ペラペラと喋っている僕の姿は、伯爵の目にはさぞかし滑稽に映っているだろう) 「引き寄せられたと言ったのに、部屋に置かれているものには、一切触れていないようだが?」 「触れるなんてとんでもない。何かあった場合を考えたら、僕の資産では到底払いきれません」 「さすがは男爵、賢明な判断をされる。この部屋にある一部の骨董品は、ちょっとでも動かすと警報が作動するような仕組みになっていてね」  言いながら室内に入るなり、暖炉の上に並べてあった置物に素早く触れていく伯爵。  どの置物で警報が作動するのか分からなかったが、まるで子どもがいたずらをしているようなそれを、ベニーと一緒に黙って見つめた。すると数秒後には廊下から大きな足音が聞こえるや否や、ノックもなしにドアが大きく開かれる。  入ってきたのは、下働きをしているらしい若い男が3人。目に鋭さを含んでいる様子に驚き、慌ててベニーの影に隠れると、追いかけるように僕らの傍にやって来て、腕を伸ばしてきた。 「おまえたち、この方々は何もしていない。俺がテストをしただけだ。この間より反応が良くなったみたいで、安心した。この調子で頼むよ」

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