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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい25

 胸を弄っていた、アーサー卿の手があっさり引き下がる。両手を使ってローランドのベルトを手際よく外し、下着と一緒にスラックスがあっけなく下ろされた。 「乱れる君の姿を執事殿が見たら、さぞかしほしくなるだろうね」 「こんなっ、すっ、姿を……、ベニーに見せる、なんて」  アーサー卿の指先が、ある部分を強く擦りつけた。 「はぁあっ!」 「はしたない君のこの格好は、彼が夢に見ている姿なんだよ」 「う、嘘だ……」 「嘘じゃない。執事として仕えながら、その裏で虎視眈々と君を狙っているという話を、直接彼から聞いた」  ローランドは告げられた言葉の意味について考えたいのに、頭の芯が痺れて、なにもかもがどうでもよくなっていく。 「っ、ううっ」 「狙っていた君を、目の前で攫われたときの執事殿のあのときの顔を、見せてやりたかった」  指が引き抜かれたことに安堵して、普通の呼吸をしようと、息を吸いかけた刹那だった。 「あ゛あ゛ぁあぅっ!」  太くて硬いなにかが、ローランドの中に分け入ってきた。  はじめてじゃないその感覚で、なにが挿入されたか分かったものの、拒否る間もなくそれをねじ込まれる。 「この間よりもいい締めつけだよ、ローランド。ヒクつきながら、俺のをどんどん飲み込んでいく」 「くるしっ……。も、やめっ」 「感じているくせに。全部君にあげよう」  アーサー卿は一瞬だけ腰を引き、目の前にある腰をしっかりと抱きしめてから、ローランドの奥に目がけて一気に貫いた。 「やぁっ、あああ!」 「中を痙攣させているということは、イってしまったか。ああ、すごい量を出して」  わざわざローランドの下半身を覗き込み、くすくす笑いながら指摘したアーサー卿。そんな彼の行為のすべてを罵倒したいのに、繋がっている部分を強く意識させられるせいで、二の句を継げられなかった。 「うっ、んくっ」  あられもない格好をさせられて、恥ずかしさを感じていたことも、今は皆無だった。両目から流れ出る涙だけじゃなく、ヨダレすら拭えない現状に、悔しさだけが心に虚しく残った。 「ローランド、君のとってはこんなこと、すぐにでもやめてほしいだろう?」 「あ……っは…ぁ、ん…」  質問されている間もアーサー卿のモノで、何度も最奥を責められ続けた。そのせいで、まともに答えることすらできない。 「アーサー卿っ、お願っ…そんなに突かないで、くださいっ!! ふぁっ! あっ」 「突きたくもなるさ。感じまくって食いちぎる勢いで俺のを締めあげる君の中を、もっとかき乱してやりたい。だが――」 「あっ、ああっ…ンンっ」 「一刻でも早く解放されたければ、俺を好きになればいい」 「なっ!?」 (なんて、馬鹿げたことを言い出すんだ。こんなことをされて、好きになれるわけがないというのに) 「躰だけじゃなく君の心も一緒に感じてくれたら、俺をもっと感じさせることができる。たとえ嘘でも好きだと言ったほうが、この行為を早く終えられるってわけさ」 「早く終わる……」  ローランドが呟くと、アーサー卿は背後から上半身に片腕を絡めてぎゅっと抱きついた。それと同時にワイシャツの隙間に片手を入れて、先ほどと同じように胸元を弄った。 「はぁ、っ……」 「なぁローランド、好きと言ってくれ」 「んっ…は…ぁっ……!」  繋がった部分から、ぐちゅぐちゅという卑猥な水音がして、室内に響く。アーサー卿の荒い吐息と卑猥な喘ぎ声が相まって、さっきイったばかりだというのに、ふたたび達したい気持ちにローランドは駆られた。 「す、好きぃっ…んんっ……ぁっ」  胸元に触れていないアーサー卿の反対の手が、ローランド自身に触れる。敏感になっている先端部分を手荒に弄られ、ぴくんと躰が跳ねた。 「あっ…ああん!」 「中もココも、とろとろに蕩けてるね。もっと好きって言ってごらん。たくさん感じさせてあげるよ」 「やぁっ、あっあっあっ」  ローランドの中にある欲望を引き出そうと、アーサー卿の両手が容赦なく蠢きながら、音が鳴るように腰を打ちつける。 「もっともっと感じて、ローランド。愛しているよ」 「アーサー卿ぉっ…好きぃ、ん…っも…だめっ! ぁあっ、出ちゃう!」 「ああ、ローランド……、俺も君の中でイかせてもらうっ!」  上半身を大きくのけ反らせたローランドを抱きとめながら、アーサー卿が何度も身震いして達した。中に注がれる熱を感じて眉根を寄せると、耳元に顔を寄せられる。吐息とともに語られた言葉に衝撃を受け、ぼーっとしていた頭に向かって、血が一気に流れ込んだ。 「なっ!?」  熱していた躰が、見る間に冷めていく。突き抜けるような快感が消え去ると、手枷の部分がじんじん痛みはじめた。 「そういうことだから、君には拒否する権利はないということさ。おやおや、まだ少しだけ時間が余っている。付き合ってもらおうか」  壁掛け時計で時間を確認したアーサー卿は、ローランドから自身を引き抜くやいなや仰向けにして、足枷になっているスラックスと下着を膝から剥ぎ取った。仰向けにされたことで手枷の金属が腰の部分に当たり、痛みに顔を歪ませた。そんなローランドを見ても目の前にある顔は、下卑た笑いで自分を見下ろすだけだった。 「ぃ、嫌だ。もうやめて……」 「やめれるわけないだろう。君につけた媚薬が、俺にもついているんだ。この熱が治まるまでは付き合ってもらう。さもなければ龍の目で録画した映像を、集いの場で披露することになるが、それでもいいのかい?」  アーサー卿のセリフに導かれるように、暖炉の上にある東洋の壺に視線を飛ばした。床の上にいるふたりを見つめるように、壺に描かれた龍がこちらを眺めていた。  ショックで固まるローランドを尻目に、アーサー卿は中途半端に開けているワイシャツに両手をかけ、残ったボタンを引きちぎるように破いた。 「ここからだと、さっきよりもいい絵は撮れないだろうが、俺の脳裏には焼きつけておこう。いつ見ても君の肌は綺麗だ。真っ白いキャンパスに、印をつけたくなってしまう」  言うなりローランドの胸の中心に顔を埋め、強く吸いついた。 「痛っ、あ……やぁっ」  躰を震わせて抵抗しても、両肩を押さえつけられると手枷がくい込むように腰に当たり、痛みが自然と増していく。 「君はもう、俺からは逃げられない。分かっているね、ローランド」 「いっ、んくっ……」  悲痛な叫びは、唇によって封じられてしまった。時間ギリギリまで卑猥な行為が続き、ローランドの涙は枯れ果ててしまったのだった。

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