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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい34
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ローランドが任された紅茶畑に顔を出しても、伯爵が来訪しない数が日ごとに増えていった。
半年もしないうちに、毎回日帰りできるようになり、以前よりも仕事が捗っているというのに、ぼんやりとした虚ろな表情をみせる主を目の当たりにして、ベニーは考えた。
「ローランド様、少しよろしいでしょうか」
「どうした? 書類になにか不備でもあったか?」
大机に整頓されている書類に手を伸ばしながら、利き手はサインの書き込みをするローランドの頬に手を添えた。
「ベニー?」
無反応な態度で接したローランドに、ベニーはすぐさま手を引っこめる。
(この手が伯爵のものならば、甘い声をあげるなり、差し出した手に自分の手を重ねるのでしょうね)
「ローランド様が、仕事に精を出しすぎている気がいたします」
「おまえにとっては、願ったり叶ったりだろう?」
「アポなしで明日、伯爵のお屋敷に向かうのはどうでしょうか」
冗談のようなベニーの意見を聞きながら、書類のチェックをしつつ、意味深に唇を綻ばせた。
「それってなんだか、アーサー卿の浮気調査をしに行くみたいな感じがするな」
首や背中につけられた傷はとうに治り、伸びをしても顔をしかめることがなくなった。それはそれでいいことなのに、仕事をしていないときにみせる虚ろなローランドの顔を見たくないと、ベニーは思った。
そして早いうちにこの恋愛に決着をつけたほうが、心の傷あとが残りにくいと考え、あえて提案したのだった。
「明日一日くらい仕事を休んでも、支障はございません。私も今日中に明日の仕事を終わらせますゆえ、伯爵に面会されたらどうでしょう」
「……突然訪ねたりしたら、迷惑じゃないだろうか」
「伯爵が現地で待ち構えていて、ローランド様は迷惑でしたか?」
「いいや、嬉しかった」
「でしたら決定ですね。明日朝一番で、王都に向いましょう!」
ベニーの弾んだ声を聞き、ローランドは久しぶりに穏やかな笑顔を見せたのだった。
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