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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい39
しんみりとしたベニーの声が、ローランドの鼓膜に張りついて、心の内を震わせる。そのせいで両手で持っているものが、異様に重たく感じた。
「僕の本当の願い、とは――」
ローランドは訊ねながら、『それ』を膝の上に置く。あたたかみのまったくない『それ』は、スラックスの上からでも金属的な冷たさを伝え、太ももから躰の芯に向かって凍てはじめた。
青ざめていく主の顔色を窺いながら、ベニーは小さく笑った。
「私にそれを言わせる気ですか。どこまでも意地悪なお方だ」
「悪かった。ベニーの気持ちを考えず、自分の想いだけで、いっぱいになってしまって」
「そんな貴方様だから、私は愛したのでございます」
「…………」
叶わないベニーの想いを聞いて、ローランドは黙ったまま瞼を伏せる。
「お渡しした『それ』を使うかどうかは、ローランド様にお任せします。使わないのであれば、私に返却してください。もし使うのであれば、伯爵にアポをとりましょう。子爵婦人にたいする非礼を詫びたいと言えば、すぐにお逢いしてくれるはずです」
「おまえ、そこまで計算して、子爵婦人に喧嘩を吹っかけていたのか?」
驚くローランドの声が、車内に響いた。
「さて、どうでしょうね」
自分の毒と称した『それ』を介して、ベニーの毒が無垢な心に侵食していることに、ローランドは気づけなかった。躰だけじゃなく、心の奥底までも凍らせる『それ』のせいで、思考が停止してしまったのである。
ローランドがベニーに返事をしたのは、それから3日経ってからだった。
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