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第一夜(前編)
†
常磐 総吾 はこれまでに感じたことのない安らぎを覚えながら目覚めた。
ずっと近くでは心地好い寝息が聞こえる。それがいっそう、荒んだ心をゆるやかにしてくれるような気がした。
そこで意識は一気に覚醒した。ふと隣を見ると、十八歳前後の青年が眠っていた。たしか彼の名は如月 閏 。総吾が通う大学の一年生だ。日焼け知らずの白い肌に絹でできたような細やかな茶色い髪。大きな二重の目に長い睫毛。女子顔負けの顔立ちをした彼は男女学年問わず可愛いと評判だ。しかし彼の評判は見かけだけでなく、内面も温厚で人懐っこい笑顔を常に絶やさない。彼は誰からも愛されていた。
対する総吾は昔から無愛想で友人と呼べる相手はおらず、両親にさえも捨てられた孤独な生涯を送っていた。
人に愛され続けている閏と生まれながらにして孤独に生きる総吾。当然、閏との接点などある筈が無い。
その彼がなぜ、同じベッドで眠っているのか。
しかも普段目にしている障子や襖はなく、代わりに見慣れないダブルベッドとナイトテーブルがあるばかりだ。
これはどういうことだろうか。
隣で深い眠りについている閏は一糸も纏ってはおらず、腰にかろうじてシーツが掛かっている程度だ。彼の滑らかな肌が薄明かりに照らされ、ぼんやりと浮かび上がっているように見える。
柔肌に散っている赤い痕跡は虫にでも噛まれたものだろうかやけに生々しい――いや、違う。この赤い痕跡は虫に噛まれたものじゃない。総吾がそう思ったのは、閏が寝返りを打った直後。後孔から太腿に流れる白い蜜を目にしたからだ。彼の後孔は出血しているのだろう、白い蜜に赤が混じっている。
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