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第一夜(後編)

 総吾は、はっと息を飲む。昨夜は新月だったことを思い出した。  総吾の家系は先祖代々霊媒師の家系で、三代目の時、自らの体内に鬼を封じ込めて以来、延々と紡がれる常磐の血の中で転生を繰り返し、総吾の体内に宿った。  鬼の種類は餓鬼。喉が細く飲食することができないそれは代わりに人間の精気を奪い、食料としている。  満月は魔物を狂わせるといわれているが、新月ほどではない。実は月の力が最も強力になるこの時こそが危険だった。  何より、総吾が生まれた日もまた、新月だったからである。霊力が強い総吾の魂と同化した餓鬼の霊力も凄まじい。  そして総吾が三歳の誕生日を迎えた三月。新月の夜、餓鬼の力が一時的に増幅し、これまで無意識の領域で押さえ込んでいた総吾の霊力を越えた。両親は怯え、霊力が高い父方の祖父母の元に置き去りにした。以来、総吾は祖父母の元で暮らしている。  自分の体内に餓鬼が棲んでいる。そのことを知った総吾は餓鬼が暴れ出す新月は不要な外出を避け、祖父と共に霊力を練り込んだ呪符で何とか抑え込んでいたのだが――昨日はたしか課題のレポートが終わらず、図書室に入り浸っていた。そこで閏と出会したところまでは何となく覚えている。  しかしその後の記憶が曖昧だ。おそらく鬼が暴走したに違いない。そして閏をこのホテルに誘い出し、食事のため貪ったのだ。厭がる彼の後孔に無理矢理自らの欲望をねじ込んで――。 (ああ、俺はなんということをしでかしてしまったのだろう)  総吾はベッドの下に脱ぎ捨てた衣服を掻き集め、急いで身に着けると、せめてもの罪滅ぼしにポケットに突っ込んでいた万札を数枚取り出しナイトテーブルに置いた。  だからといって、これは許される行為ではない。彼の心には無理矢理、しかも同性に抱かれたという深い傷ができたのだから。  ベッドに力なく横たわる彼の表情を見ると、疲労感が伝わってくる。目尻から頬に向かって流れているのは涙の跡だ。罪悪感が総吾の胸を締め付けた。  これは二人にとって忌々しい記憶の一部になるだろう。願わくば、彼が昨夜のことを忘れてくれているように。  総吾は一縷の望みを胸に、ホテルを後にした。

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