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最終夜(前編)
†
鈴虫が鳴いている。夏も終わりを告げ、いっそう哀愁が漂う夜は孤独を感じさせる。まだ午後六時だというのにすっかり日が落ちていた。
大学の講義も終わり、やけに長い一日だったと、総吾は大きなため息をついた。大学の授業を受けるのにこんなに疲労したのは初めてだ。それもその筈、総吾が休憩になる度に如月 閏が付きまとってくるからだ。
「ねぇ、総吾さん。今帰り? 僕も一緒に帰ってもいい?」
そして彼は例の如く帰宅さえもこうして歩み寄ってくる。
「いい加減にしろ! 今日のことで理解しただろ? 俺はお前を無理矢理抱いた。また酷い抱かれ方をされたいのか?」
閏といると昼間の苛立ちが蘇り、言いようのない自己嫌悪に陥る。
「総吾さん、僕は!」
閏の手が伸びてくる。
「煩い!!」
(もう放って置いてくれ!)
彼を振り払う手の指先が霊気を纏ったのを感じて振り返った。すると鋭いナイフにでも切り裂かれるように腕の皮膚がぱっくりと開き、鮮血が絶えず流れていく様が見えた。
「俺に親がいない理由を教えてやるよ。俺から逃げたんだ。俺は鬼の魂を持つ化け物なんだよ。だからもう関わるな! これ以上、俺の中にいる鬼が活性化すれば身体だけじゃなく命まで奪う可能性だってあるんだ。俺は化け物なんだよ!」
自分はこんなに簡単に人を傷つけることができる。
それは総吾が鬼そのものなんだと確信した瞬間だった。どす黒いものが総吾の胸を覆っていく……。
「総吾さんは化け物じゃない!! どうして無理矢理抱かれたって言い切れるの?」
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