11 / 12

最終夜(後編)

 閏がそう言う間にも白いシャツが赤く染まっていく。ただでさえ色素の薄いその顔は青白くなっていくのが窺える。 「お前は馬鹿か! 何故、こうまでして首を突っ込もうとする!」  いくら日は翳ったとはいえ、帰宅する人間がいないとは言い切れない。総吾は人気のない裏庭へと閏を連れると木の陰に腰を下ろした。霊力を練り、深く傷ついた彼の腕に集中する。少しずつではあるが確実に傷口から出血が止まり、塞がっていく。  本来なら有り得ないその光景を、彼は声ひとつ上げず、冷静に見守っていた。「……ほら、総吾さんは優しい」  そして、閏はぽつりと口を開いた。 「僕は抱かれて嬉しかった。……好き。ずっと見ていたんだ。いつも一人で寂しそうにしている貴方を――」 「――――」 「総吾さんの笑った顔が見たくて、ストーカーっぽい真似事までしていたんだよ。その時ね、今みたいに鳥を懐抱していた時があったでしょう?」 「……見ていたのか?」  たしか先月、そのようなことがあった。帰宅途中に羽根が傷ついた一匹の雀を見つけ、懐抱してやったのを覚えている。今のように木陰に入り、誰にも見られないよう配慮したつもりだったが、実はそうではなかったらしい。 「治癒の力、すごいって思った。鳥を懐抱し終えた時、飛び立つ雀を見上げて笑った顔がすごく綺麗で……格好良くて……僕にも向けてほしいって、そう思ったんだ。だから、傷つけられてもいいし、酷く抱いてくれてもいい」 「さっきのようにまた暴走する可能性だってあるんだぞ?」 「好きにしていい。でも、僕だけにしてね」 「どうなっても知らんぞ」  ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。総吾の心は穏やかだった。

ともだちにシェアしよう!