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第三夜(前編)

 †  翌日、午前から夕方まで講義を入れていた総吾(そうご)は、空いている講義室でパンをかじっていた。  二日前の午後から移動時間の合間は如月 閏(きさらぎ うるう)に付きまとわれいい加減うんざりだ。ようやく一人の時間が過ごせると思いきや、彼はいったいどこで自分のことを嗅ぎつけたのか。講義室のドアから閏が姿を現した。そうして彼は当然のように総吾の隣に座る。  自慢にもならないが、総吾は一重で目付きが悪い。加えて両親に捨てられてからはことごとく人を信用しなくなったし、彼らもまた本能で総吾の内に眠る鬼の存在を感じ取っているのか。総吾に怯え、近寄らなくなった。  しかし閏は違う。どんなに睨みつけたとしても彼は怖じ気づくこともない。実際、こうしている今だって隣に居座る彼を睨みつけているのに気にする様子はない。 「いつも一人で寂しくないの?」  二人だけの空間が広がる。総吾は静かな室内に張り詰めた空気を生み出す。それでも閏は気にもとめずに口を開いた。 「――――」  自分はけっして孤独が好きなのではない。しかし両親は自分の中にある鬼に怯え、逃げた。誰も彼もが自分から去っていく。  けれども、『自分は実は鬼の魂と同化しているんです』『お前を抱いたのは鬼が精気を欲したから』などと口にしたくはない。第一、一般人にそれを言ったところで信じるわけがないのだ。 「知らないかもしれないけれど、総吾さんは、寡黙で格好いいって人気あるんだよ?」  総吾がろくに返事もせずにいると、閏は続けた。

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