7 / 12

第三夜(中編)

 一人きりになりたいところを邪魔されて、訊いてもいないのに好き勝手しゃべり続ける閏のおかげで総吾の機嫌はすこぶる悪い。それを感じ取ったのか、彼は苦笑を漏らした。  それでも総吾から立ち去ろうとはしない閏はそうまでして自分に何を求めているのだろうか。  昨日、閏は自分を抱いたのだから責任を取れとそう口にした。けれどもそれ以上、総吾に何も要求してこない。 「――――」  二人の間に再び沈黙が降りる。 「――両親に捨てられた俺と違って誰からも好かれ続けているお前には判らないだろうな」  次に沈黙を破ったのは総吾だった。ふんっと鼻を鳴らし、自ら口にした言葉は刃となり、胸を突き刺す。自分は一生涯孤独なのだと思い知れば、ひどく惨めで悲しい。 「僕の両親は飛行機事故で亡くなったんだ。総吾さんと一緒だよ」  閏は微笑んでみせた。けれどもその笑みはどこか影を纏っている。普段から笑顔を絶やさない彼のどこにそのような悲惨な過去があったというのだろう。総吾は閏の素顔を垣間見た気がした。  背後の窓から侵入する午後の陽気な光が閏の頬に当たる。目の下にできた紗がさらに悲しみを感じさせる。  慰めのひと言でも口にできればいいのだが、生憎自分はそこまで優しい人間ではない。 「それでもお前は両親に愛された記憶がある」  しまったと思ってももう遅い。たとえそれが事実だとしても、今はかけるべき言葉ではなかった。口をついて出た言葉はあまりにも素っ気なく、あまりにも冷酷なものだった。  もしかすると、鬼が自分の魂と同化したのも、自分自身が鬼のように無情な心を持っているからではないだろうか。

ともだちにシェアしよう!