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ugly
午後9時頃に公園を通りかかった。習慣の、ランニングだった。
咳き込む声が聞こえた。尋常じゃないような呼吸の音、鼻をすする音、そして、水道の水を勢いよく出したような、ジャバジャバという音がした。
俺は公園に入り、音のする場所を目指す。するとそこにいたのは、水飲み場の近くに座り込み、過呼吸になっていたあいつだった。
「どうしたんだ、おい」
俺が話しかけても、苦しそうに息をするだけで喋ってくれない。俺はとっさにそいつを抱きしめた。大丈夫だ、大丈夫だと言って俺に寄りかからせた。
濡れている。ぬるぬるとした感触がある。
携帯電話でそいつの顔を照らす。血も出ていたけど、ぬるぬるの正体は血ではない気がする。
とにかく俺はそいつを抱きしめたまま、呼吸が落ち着くのをじっと待っていた。
「触らないで」
始めて口にしたのがこの言葉だった。ちくりと、胸が痛くなる。
「きたないから、僕」
二言目がこれだった。
「なんで?汚くないよ、とりあえず顔洗おう、冷たいけど」
俺が言うと、そいつは手のひらで水をすくって、顔を洗った。手はちいさく震えていて、細い指の隙間から水がこぼれていた。
俺は自分の上着を着せた。
寒くて震えているのか、恐怖で震えているのかわからなくて、でも温かいもので包んでやらないとダメだと思った。
肩を貸して立ち上がり、俺は一緒に歩いて家に送った。
そいつの家は、真っ暗だった。
「誰もいないのか」
聞くと、頷かれた。
「ひとりで大丈夫か」
また頷く。
俺が帰ろうとした時、待って、と引き止められた。
「きたないから、ちゃんと綺麗にして、手とか、僕に触ったところ、ごめんね」
今度は俺が頷いた。よくわからないけど、汚くないよ、と言ってやりたかった。
俺が家に帰り着いたのは、10時前だった。
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