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ugly
涙が止まらなかった。
俺の家の玄関の戸にかけられていた、見覚えのある紙袋。中に入れられていた小さいメモ用紙に「ごめんね」と、ただそれだけ書かれていた。
あいつを叩いて学校に行ったあと、クラスの奴が「お前最近あいつと仲良いじゃん、でもあいつ昨日学校サボって買い物行ってたんだぜ、しかも、姉貴に会ってた、なにやってんだって感じだよな。まあ俺もサボってたからその様子を見たんだけど」と話しかけてきた。
俺は呆然と立ち尽くしていた。
あいつは、お金を借りたと言っていた。
もらったとは、言ってなかった。
姉がいると言っていた。
姉に借りたに、違いなかった。
物静かなあいつが、結婚して家を出た姉に金を借りて、わざわざ街へ出た。
全く同じ上着を買って返そうとしたのに、俺は。
学校どころじゃなかった。
体調が悪いからと嘘をついて早退し、あいつの所に行こうと思った。家に帰って、制服では怪しまれるから私服に着替えようと思った。
家に着いたら、戸の紙袋があったのだ。
メモ用紙のごめんねの文字は、すぐに涙で滲んだ。あいつが謝ることは、なに一つなかったのに。
俺は、中学以来使ってなかった自転車を引っ張り出して、あいつの家まで飛ばした。紙袋に入っていた新品の上着を着た。
あいつの家の玄関のドアは、開きっぱなしになっていた。名前を呼んだけど、物音一つ聞こえなくて、俺は勝手に家に上がり、あいつを探した。二階の奥があいつの部屋のようだった。
勉強机とベッドとクローゼットがあるだけの、殺風景な部屋だった。
机の上に、俺が前に貼ってやったのと同じ絆創膏の箱が一つだけあって、開封されていなかった。
椅子にかけられていたものが、俺の心を締め付ける。俺が貸した上着だった。ほつれて、ところどころ色が落ちて、ぼろぼろだった。たぶん、あいつが手洗いしたんだろう。うまくきれいにできなくて、結局新しいのを買うことにしたのか。想像は、たやすかった。
いつまでも妄想にふけっていることはしなかった。あいつがどこにいるのか、はやく突き止めて、たくさんたくさん謝りたかった。
あの建物へ向かう。
寂れたドアを開ける。中はもぬけの殻だった。あの男達もいない。
部屋の中に、催眠ガスの缶が落ちていた。あいつは眠らされてどこかへ連れて行かれてしまったのか。
ふと、部屋の奥の床に、光るものを見つけた。学生服のボタンだった。多分あいつのだ。血に濡れている。ボタンが落ちていたのは、部屋の奥にある棚の前だ。もしかしてと思って、棚を動かす。
棚の後ろに、隠し部屋があった。
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