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第5話
世間がハロウィンハロウィンと言い出したのは、ここ最近の気がしてならない。街の至る所に浮かれたような蜘蛛やお化けが隠れていて譲は身震いした。虫も苦手である。
しかも、もうすぐハロウィン当日がやってくる。溜息をつきながら出署すると、捜査本部が何やら賑やかだった。ついに有力な容疑者が現れたかと思いきや、全く違った。
「おはようございます。この騒ぎはどうしたんですか」
譲は直木の側へ寄った。朝の弱い譲に対し、欠点を探しようのない直木はいつも通り凛々しい表情で腕組みをしている。見上げた横顔は惚れ惚れするくらい格好が良い。
「大林がやっていたデートバーが明日に限定復活するらしい。彼女達のSNSで判明した」
「それってまさか……」
「そう。おそらく共同経営者のミスターXが主催だ」
「任意で引っ張るチャンスじゃないですか」
「名前も分からないのに、何の容疑で引っ張るんだよ」
同じ班の安田にすごい速さで突っ込まれる。結局、銀行口座を調べてもミスターXの名前は浮上しなかった。
「それは、適当に……」
「おい、佐渡。警察が適当にやっちゃだめだろうが。お前は馬鹿か」
「いてぇっ。山上さん、痛い……もうっ」
笑いながら頭を押さえてじゃれる譲に、山上も同様に笑顔を見せている。奥歯をかみ締めて静観している直木の心中など誰も知る由がない。
「明日の10月31日、ここでハロウィンイベントが開催される。イベント内容は仮装パーティー。おそらくここに共同経営者がやってくるはずだ。そこで、何人か潜入させたいと思っている」
『潜入』と聞いて、譲の好奇心が刺激される。刑事っぽくなってきたと、心が踊った。自分はヘタレで役に立たないから、周囲で警戒する役割になるだろう。それでもわくわくする。
「条件は2人組で仮装することだ。性別は問わない。ごつい男が行くより、物腰が柔らかそうな奴が行った方がいいと俺は思う。何故なら、必要以上に目立ってはいけないからだ」
山上がそう言うと、周囲の視線が一斉に自分へ向けられ、譲はきょとんとした。
「え……ええと……皆さんはもしかして俺を見てます……?」
「佐渡しかいないだろう」
「そうだな。ヘタレな佐渡が適任だ」
「俺もそう思う」
「山上さんまで…………直木さんは?」
「俺も同意見だが、佐渡が選ばれれば、おそらく俺も同行だろうから素直に頷けない」
「そんなぁ……」
満場一致で、直木と譲が潜入することになった。目的は共同経営者を探し出すこと。集まる彼女たちから話を聞き出し、姿を表せば職質をかける。
一歩間違えたら全てが台無しになってしまう。譲は緊張でどうにかなりそうだった。
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