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番外編 リクエストお題『膝枕』

「やっぱり此処だった」  透の呟きに、屋上のコンクリに寝転がっていた喜多川が薄く片目を開けた。  三時限目の体育の授業に、喜多川は姿を見せなかった。褒められたことではないけれど、それは今や教師も生徒も周知のことだ。  透も内心「またか」と呆れつつ、授業が終わってすぐに喜多川の『秘密基地』である空き教室へ向かったのだが、そこに喜多川の姿はなかった。  九月も後半に差し掛かっているが、まだまだ残暑は厳しく、普段は使われていない小さな空き教室には、むせ返えるような熱気が篭っていた。到底、居心地が良いとは言えない。  ならば…と、透が屋上へ向かうと、予想通り、喜多川はペントハウスの陰でその長身を横たえていた。  日陰になっているそこは、風通しが良いのもあって、校舎内よりも随分涼しくて快適だ。  校内で寝心地の良い場所を探させたら、喜多川の上をいく人間はまず居ないだろうなんて、妙なところに感心してしまう。 「何だよ、まだ昼じゃねぇだろ」 「昼休みまであと一時間あるけど、もう体育は終わったよ」 「だりぃから昼まで寝る」 「こんなに不真面目な喜多川の方が俺よりずっと成績イイとか、理不尽すぎる……」 「お前は要領悪すぎんだよ」  欠伸混じりにそう言って、喜多川は再び目を閉じてしまう。  大人びた容姿の喜多川だけれど、寝顔はほんの少しあどけなさが残っている。喜多川も、まだ透と同じ高校生なんだと実感する瞬間だ。  ───寝てるときの喜多川って、何かに似てるんだけどな。  何だっけ、と首を捻りつつ、透も喜多川の隣に腰を下ろす。  風に靡くアッシュグレーの髪を暫しジッと眺めて、ようやくピンときた。 「ハスキー犬だ」 「……は?」  思わず口から零れてしまった呟きを拾って、喜多川が億劫そうに瞼を持ち上げる。 「いきなり何だ」、「まだ居んのかよ」とその目が言っている。それがわかるようになったことも嬉しいなんて言ったら、眉を顰められそうだが。 「喜多川って、寝てるとハスキー犬みたいだなって思って」 「お前、眼鏡作り直せ」 「可愛いよね、ハスキー犬」 「話聞いてんのかよ」  喜多川の呆れた声に、四時限目開始のチャイムが重なった。 「あ、しまった」  そう言いながらも、以前ほど慌てていない自分が居る。  喜多川と親しくなって、いつの間にか透まで、サボることに慣れてしまっている。喜多川みたいに優秀じゃない透は、呑気にしている場合じゃないと頭ではわかっているのだけれど……。 「……まあいっか。天気良くて気持ちいいし、俺も寝ようかな」  見上げる喜多川の目が、意外そうに一瞬丸くなる。  やがて小さくため息を零した喜多川が、「じゃあ膝貸せ」と透の腕を引っ張った。  いつかの踊り場みたいに、強引に透の膝を枕にして、喜多川は睡眠体制に入る。 「これじゃ、俺寝られなくない?」 「寝ようと思えば寝られんだろ、多分」 「他人事……。あ、そうだ。今日の放課後、委員会だから」 「朝も聞いたっつの」 「聞いてもすぐ『忘れた』って言うじゃん。文化祭までもうあとひと月だから、ちゃんと出てよ」  返事を欠伸で誤魔化して、今度こそ喜多川は目を閉じた。  そっと髪に触れてみたが、その手を拒まれることはなかった。  本当に眠いからなのか、それとも気を許してくれているからなのか。  出来れば後者がいいな、と目を細めて、透は小一時間、膝の上の温もりを堪能したのだった。

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