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第9話
「痛っ。」
「ごめん。爪が当たった?」
はっとして、取り繕う。
「ううん。昨日、虫に刺された所をかきむしり過ぎちゃって。明のせいじゃないよ?」
明の方を振り返りながら、言う。
明にキスをすると、優しく髪を撫でてくれた。
「もう少し寝よ?まだ朝だよ?」
「うん♪」
明の胸に寄り添うと、背中をぎゅっと抱き寄せてくれた。
あったかい。
明の匂いにうっとりしながら、目をつむり微睡む。
目が覚めると、明はベッドにいなかった。
「あきらぁ?」
シンと無音が返ってくる。
ベットから降りて声をかけながら、部屋を歩き回るけど、いなかった。
靴がないのを見て、スマホを取りに部屋に戻った。
スマホに明からのメッセージはない。
ソファに座ってテレビをつけるともう午後1時半になっていた。
お腹へってどっか食べに行ったのかな。
膝を抱えて、顎をのせて丸くなる。
早く帰って来ないかな。
扉の音が聞こえて、足音が近づいてくる。
「舜、起きてたの?」
返事しないでテレビを見る。
テーブルにビニール袋を置くと、隣に座って来た。
「拗ねてるの?」
ほっぺにキスをされる。
「寂しかった?」
ぎゅっと抱き締めてよしよししてくれる。
「かわいい♪」
「置いてかれて怒ってるんだよ!」
「ははっ、やっとしゃべった♪」
口にキスをされるとほっこりしてしまう。
明はずるい。
こんなに大人で。
「ゆっくりしたかったから、カップ麺買ってきちゃった。どっちがいい?」
指を指す。
「すぐ食べる?」
頷く。
「プリンも買ったから、後で食べようね。」
キッチンにお湯を入れに行く後ろ姿をじっと見つめる。
一人で暮らしていた家にもう一人いるだけで、こんなに雰囲気って変わるんだなあ。
そのもう一人が重要なんだろうけど。
「はい。これが、舜の。」
スマホを取るとカウントダウンタイマーをセットした。
「え?計るの?」
と、言いながら、もう明は蓋をめくっている。
「え?なんで開けてるの?」
まだ1分も経っていないのに、明は何食わぬ顔で開ける。
「混ぜてたら、すぐ食べれるし。舜こそ、よく待てるね?」
楽しそうに笑いながら、ラーメンをつつく姿に呆然とする。
知らない一面に気づく。
明はもう食べ始めようとしている。
「もう食べるの?」
「うん。」
まだ形の残る麺を口に運ぶ明は男の子のようで、新鮮だった。
アラームを切って、すする。
久しぶりに食べたカップ麺はいつもより美味しかった。
「舜のちょっとちょうだい。」
息を吹きかけてから、口に運んであげる。
「やっぱそっちも美味しいなぁ。二個ともそれにしたら、良かったかな。」
目が合うだけでぽかぽかする。
「まだいる?」
「もう、いいよ。舜のがなくなっちゃうよ。…ありがとう。」
好きな人と一緒にいれるだけでいい、っていうお決まりの言葉が頭に浮かんだ。
「片付けやめて、この後、仲良くしない?」
明に首を触られてそこが熱を持つ。
「…ごめん。今日、お腹の調子が悪くて。」
「そうなの?じゃあ、お粥とかが良かったね。ごめんね。」
「ううん。そこまでじゃないから。大丈夫だよ。」
後ろめたい気持ちが胸を締め付ける。
隼人のが中に残っていたみたいでお腹の調子が悪い。
その事にイライラしていることを明に悟られないように装った。
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