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第10話
今日は舜が早く上がれると言っていたのを思い出す。
「迎えに行くか。」
スマホを取り出して、舜に連絡しようかと思ったが、驚かしたくなり、スマホをしまう。
いつもの駅を通りすぎて、舜の職場の駅に着くと、わくわくしてきた。
赤くなって喜ぶかな。
店に着いて、舜を探すが見当たらない。
キョロキョロしていると話しかけられた。
「四宮さんの、彼氏さんですよね?」
「え?」
彼氏という響きにどきまぎする。
しかも、この間キスしてるのを見られた子だ。
「四宮さんなら、もう帰りましたよ?…あっ、そういえば忘れ物してたのでちょっと来てもらえます?」
「あ、はい。」
いないのに来てしまったことが恥ずかしくて、早く帰りたいが前を歩く青年についていく。
忘れ物預かって帰ったら、舜の店に来たことがバレるのも恥ずかしい。
先日来た部屋に通された。
「これ、見てもらえます?」
振り替えるとスマホの画面がこちらを見ている。
『…あっ、あっ、もっと激しくぅっ。』
スマホからは卑猥な声が漏れている。
それを見ながら、すっと冷静になる。
「これは何です?」
「彼氏さんに、四宮さんの本性を教えようと思いまして。俺、四宮さんとこういう関係なんです。知らなかったですよね?俺、言ったんですよ。あなたの事キープしとくなんてひどいから、早く別れてあげなって。」
「そう。それは知らなかった。」
「ですよね?早く別れた方がいいですよ?色んな人とこういうことするの好きな人なんで。」
ガンッ!
胸ぐらをつかんで後ろのドアに押し付ける。
手が力で震える。
「隠し撮りしないと撮れなかったの?いい趣味してるね。」
「放して下さい!俺はあなたを思って。」
手をはなされようと隼人がしているが、引っ掻き傷がつくだけで離れない。
「放さないと、ネットで流すぞ!」
「そんなことしてみろ。殴り殺してやる…。そうだな、ネット流したら証拠になるし、強姦罪で刑務所にも入れれるな?」
ニヤリと笑って、手を離す。
隼人が咳き込んでいるのを横目に部屋を出て、家路を急いだ。
ーーーーーーー
家に着くと、舜がにこにこしながらお出迎えに来た。
その顔を両手で包むと激しく舌を差し込んだ。
「っぅんっ…。」
舜の口から吐息が漏れる。
立ち位置を返し、玄関に舜を押し付ける。
舜の苦しそうな息づかいが耳に届く。
舜の手が弱々しく俺の胸を押してくる。
口を離すと肩で息をする。
「明?」
舜の体を持ち上げて運び、ベッドに組み敷いた。
舜の目が怯えている。
俺は今、どんな顔をしているんだろう。
スウェットの裾にに手をかけると、舜の手が必死に抑えてきた。
舜に馬乗りになり、手を拘束するとスウェットをめくった。
紫色の痣が目に写ると怒りがこみ上げてきた。
舜は顔を横に向けて、唇を噛み締めている。
「舜。」
こちらを見た顔は涙で濡れている。
「どうしてあんなことした?」
舜の顔の横に手をつく。
「…言いたくない。」
舜の潤んだ瞳からポロポロと涙が溢れている。
「言え。…言わないと出ていく。」
「やだ!行かないで!行かないでよぉ!」
「言え。」
唇をきつく結んだあと、こぼれるように話始めた。
舜はぽつりぽつりと言葉に詰まりながら説明した。
それを聞けば聞くほど、隼人への怒りと自分に対しての怒りが意識を支配していく。
「俺はそんなに頼りない?何で脅されたときに言わない?」
「ごめんなさい。…でも、僕は平気だから。明は僕との事、恥ずかしいでしょ?それを誰かに知られたりしないで済んだんだよ。もう終わったことだから忘れよぉ。」
「そんな話はしてない!何で俺に言わない?」
ベッドを殴る。
「困らせたくない。」
舜のおでこに拳を当てる。
「ばかっ!!もっと俺に頼れ!困らせろ!お前と付き合うのが恥ずかしいなんて思ってない!!
…俺ってそんなに頼りないか?」
「ううん。いつも明のこと頼りにしてるよ。
…でも、僕のせいで画像撮られたから、自分でどうにかしなくちゃって。」
「俺のためだって言うなら、お前の行動は間違いだよ。あんな辛そうな舜、見たくなかった…。こんなむちゃくちゃしやがって、あのやろぉ。ぶん殴ってやれば良かった。」
胸の傷に触れる。
「俺の愛を信じろ。どんなお前も愛してやる。
お前のせいで困るのなんて大歓迎だ。
…二度と、勝手に判断するな。」
舜を足の上に座らせて、抱き締める。
舜が首にしがみついて泣いている。
「ごめんなさいっ。」
頭を撫でる。
「辛かったね。気づいてあげられなくてごめんね。」
強く抱き締めると、小さくて今にも壊れてしまいそうだ。
嗚咽を漏らして泣く舜をしっかりと抱き留める。
「二度と他の奴に触らせない。お前は俺のものだから。」
「うん。二度としない。」
舜が頬に手を添えて話す。
真っ直ぐな意思を伝えてくる。
「っ!?…明、全部見たの?」
「少しだけ見せられた。」
舜の顔がみるみる泣き顔に戻っていく。
「見られたくなかったよぉ。…あきらぁ、信じて、全然、感じてなんかないよ。早く終われってずっと思ってたよ!」
「…わかってる。すぐわかったよ。舜はあんな鳴き方しないって、俺は知ってるから。あんな辛そうな声…。苦しかったね。」
優しくキスをすると涙の味がした。
「…っ。」
柔らかい唇に触れる度、愛しさがこみ上げる。
「抱いて。」
舜の潤んだ瞳で懇願されると、体温が上がる。
でも、そこから視線をそらした。
「…ごめん。出来ない。」
ベッドから降りるとスーツを脱ぐ。
後ろから舜が服を引っ張る。
「なんで?あきらぁ、僕の事嫌なの?」
クローゼットにスーツを片付けながら答える。
「好きだよ。…でも、…流石に頭にきてる。」
部屋に舜を残すと、浴室に向かった。
「くそっ!」
浴室の壁を強く叩く。
今、舜を抱いたら、怒りに任せて傷つけてしまう。
舜の胸の痛々しい傷が目に浮かぶ。
こうなることが、隼人の思うつぼだとわかるからこそ、はらわたが煮えくり返りそうだった。
深く息を吐くと、湯船に顔を沈める。
「っはあ!」
勢いよく顔をあげる。
頬を強く叩く。
部屋に返ったら、普通に接する。
舜が悪いんじゃない。
僕がしっかりしてないから、いけないんだ。
舜みたいに、堂々としたら良かったんだ。
舜が不安になるような態度をとったから。
あんなひどい目に合わせて…。
しっかりしろ。
僕が頼りになる男にならないと。
リビングに行くと、テーブルに夕食が並んでいた。
泣き腫らした顔で笑う舜が痛々しい。
「ご飯、食べよ♪」
「うん。ありがとう。」
僕はうまく笑い返せただろうか。
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