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第1―5話

その後4人はそれぞれ別れた。 羽鳥は自宅マンションに帰り、シャワーを浴びると、大分落ち着いた。 冷たいお茶を飲みながら一息吐くと、思わず笑みが零れる。 最初はどうなることかと思ったが、これはタナボタというやつじゃないか? 柳瀬が吉野に手作りのホワイトデーを目論んでいるところに、自分も手作りのホワイトデーが出来るのだ。 しかも仕事の名目で! しかも先生までついて! 絶対、柳瀬以上の物を作ってやる!! そこまで考えて羽鳥は吉野に会いたくなった。 吉野は修羅場明けだ。 自分も校了明けだし、昼食を作ってやりがてらに訪ねて行って、明日は吉野のマンションから池袋に行けばいい。 それに、それとなく吉野に欲しい物が何かを聞き出しておけば、明日翔子ママに会った時、話が早いだろう。 羽鳥は素早く明日の用意を済ませ、足取りも軽く自宅から吉野のマンションに向かう。 合鍵で吉野の部屋に入ると、リビングのソファに寝転がって漫画を読んでいた吉野が、パッと起き上がり笑顔で走って羽鳥の元にやって来る。 「トリ、お腹空いたー!」 顔を赤くして、珍しく自分から羽鳥に飛び付いて来る。 半分本音で半分照れ隠しの言葉に、吉野も自分に会いたかったのだと羽鳥は頬が緩む。 羽鳥は修羅場でまた細くなった吉野のウエストを掴み抱き寄せると「今、作ってやる」と言って吉野の頭の天辺にキスをした。 羽鳥が作った昼食を二人で美味しく食べ終わると、吉野が「来月号のプロットをちょっと思い付いたんだけど聞いてくれる?」と言い出した。 これには羽鳥は直ぐに返事が出来ない程、驚いた。 入稿が済むと、休むことばかり考える吉野が、自分から仕事の話をし出したのだ。 羽鳥が何とか「ああ、勿論だ」と答えると、吉野は羽鳥が揃えてやった春夏用の女の子の先取りファッションの資料を仕事場から持って来た。 「次は3月末の掲載だからさ、季節感を全面的に出そうと思って。 それに桜のエピを絡めるってどうかな?」 「いいんじゃないか」 二人ソファに並んで座り、資料を捲っていく。 今吉野が連載しているヒロインは、見た目がボーイッシュで中身が一途な乙女という設定だ。 なので羽鳥が用意したファッションの資料もボーイッシュなものが多い。 羽鳥はホワイトデーのせいで、資料のボーイッシュなファッションに身を包む女の子のモデル達が、皆吉野に見えてしまい困った。 しかも全部吉野に似合うように見えてしまう。 それでも何とかヒロインに似合いそうな洋服を提案した。 吉野も「それ、いいな!」と喜んでいる。 そこで羽鳥はさり気なく切り出した。 「お前、自分が着るとしたらどれ着たい?」 「えー。これ女の子の服じゃんか」 吉野が頬を膨らます。 「お前はユニセックスの服も着るだろう。 どれが好みなんだ?」 「何でそんなこと聞くんだよ~」 「作者の好みが反映されるのは良いことだが、偏ることもあるからな」 羽鳥は本心を隠して、もっともらしく言う。 吉野はうーんと考えると、暫くして「これ!」と言った。 それは重ね着が出来るニットの白いチュニックだった。 シンプルな作りだが、裾が凝っている。 花模様が波打つように編まれているのだ。 写真の女の子はそれに細いデニムを合わせている。 羽鳥も一目で吉野に似合うと思った。 羽鳥は吉野に気付かれないように、その写真をコピーし、バッグにしまった。 午後はそんなことをしながら、のんびりと過ごした。 ソファに座って羽鳥は本を読み、吉野は羽鳥に膝枕をしてもらって漫画を読んだり、アニメのDVDを見たりしている。 途中でおやつに羽鳥が買ってきたケーキを美味しそうにニコニコ笑って食べる吉野。 そんな吉野をコーヒーを飲みながら見つめる羽鳥。 何気ない、ありふれた休日の午後。 それでも羽鳥には、何よりも幸福な時間なのだった。 羽鳥がそろそろ夕食の準備にかかろうとキッチンに立つと、吉野が追い掛けてきた。 「どうした?」 羽鳥がエプロンをしながら訊く。 吉野は顔を真っ赤にしてもじもじしながら言った。 「今日さ、一緒に風呂入らねー?」 羽鳥は聞き間違いかと思った。 恥ずかしがり屋の吉野から風呂に一緒に入ろうなどと誘われるなんて、殆ど無いからだ。 そして吉野はまた爆弾を落とした。 「トリにやってもらいたいことがあって…」 やってもらいたいこと!? 風呂と言えば頭と身体を洗うのが当然だが、こうしてわざわざ言ってくるなんて…まさか!? 羽鳥は脳内を真っピンクに染めながら、ポーカーフェイスを崩さず「分かった」と一言言うのが精一杯だった。 吉野が「トリ、さんきゅ!」と笑ってキッチンを出て行く。 今日の吉野には驚かされてばかりだな… 羽鳥はもう我慢できず、ニヤニヤ笑いながらうきうきと冷蔵庫を開けるのだった。 羽鳥はいつもより夕食を早めにした。 なんせこの後は大事なバスタイム。 それでも平静を装い食事を終える。 後片付けも完璧に終わらせ、とうとうその時間がやって来た。 二人で脱衣所で服を脱ぐ。 羽鳥がニットを脱ぎ洗濯籠に入れたその時。 吉野もニットを脱ぎ、インナーも脱いだ。 羽鳥の目が吉野の裸の上半身に釘付けになる。 その上半身に散らばる赤い跡。 羽鳥と吉野は一週間以上セックスをしていない。 それならこの跡は…? 羽鳥は気がつくと、吉野を脱衣所の壁に押し付けていた。

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