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第1―17話
高野がスマホで美濃を呼び出すと、美濃は直ぐに会議室にやって来た。
美濃が羽鳥の隣りに座ると同時に、高野が口を開いた。
「お前、ジャプンの桐嶋さんと俺と羽鳥の噂を知らないか?」
「知ってますよ」
美濃はアッサリ答える。
「どんな噂だ?」
羽鳥が美濃に身体を向ける。
美濃は微笑を浮かべて話し出す。
「先週の日曜日の午前11時頃、桐嶋さんと高野さんと羽鳥とブックスまりもの雪名くん、池袋の東口に居ましたよね?
物凄く背の高いどっしりした感じの女の人と、ショートカットのすらりとしたモデル系のボーイッシュな女の子三人と」
そう言うと美濃がスマホを取り出すと動画を再生した。
離れた所から撮られているが、確かに、翔子、アミ、ルイ、ミホ、それに桐嶋、高野、羽鳥、雪名が映っている。
高野と羽鳥が絶句していると、美濃が続けた。
「その日、ブックスまりもで青年誌の先生のサイン会があったんです。
それで所要で外に出た営業部の人が高野さん達に気付いて撮ったんです。
別に悪気があった訳じゃ無くて、桐嶋さん達が揃って出かけてるのも珍しかったし、モデル系の女の子もいるし、後で冷やかすくらいの気持ちで。
そしたらみんなが歩き出したので、まさかデート!?と思ってあとをついて行ってみたら、行列の出来るラーメン屋に並んでる。
それも楽しそうに。
それで営業部の人はこれはデートだって確信したらしいんですよね。
相当親しくなかったら、ラーメン屋の行列になんて並ばないですよね」
高野と羽鳥が黙り込んでいても、美濃の微笑みは変わらない。
「で、サイン会場に戻って動画を同僚に見せたんです。
そしたら転送してくれってなって、転送していくうちに丸川に広がったんです」
美濃がにっこり笑う。
「大柄の女の人と桐嶋さんは、どう見ても友達同士だった。
つまりその人が、女の子達と桐嶋さんと高野さんと羽鳥の仲を取り持ってるんじゃないか。
イコール女の子達は桐嶋さん達の恋人候補なんじゃないかってことになったんです」
「でも…それじゃ雪名くんは…?」
羽鳥が絞り出すように言うと、美濃はシラッと答えた。
「雪名くんは女の子に対するテストなんですよ」
「テスト?」
高野が眉を寄せる。
「そうです。
大柄の女の人は桐嶋さんと高野さんと羽鳥と女の子達を恋人にしたい。
もしかしたら、逆に桐嶋さん達の方が女の子を紹介してくれと頼んだのかも知れない。
そこに雪名くんを連れて行く。
キラキラ王子様の雪名くんにも惑わされない女の子を選ぶって事です」
高野と羽鳥は頭を抱えたくなった。
どうしてこんなことに!?
手作り本の話をして今すぐにでも誤解を解きたいが、手作り本の編集部がサプライズ企画として水面下で動いていて、他の編集部に極秘にしている可能性もある。
エメラルド編集部も記念号で、そういうやり方をしたこともある。
これは井坂さんに確認を取るまで、迂闊なことは話せない…
すると美濃はそんな二人に天気の話でもするように、何気なく言った。
「それにこの前お見合いまでしましたよね?」
「おっお見合い!?」
高野と羽鳥の声が重なる。
「してねーよ!何で見合いなんか…」
高野の言葉が止まる。
美濃がスマホで三枚の画像を見せたからだ。
「これ月曜日に丸川の真ん前のカフェで撮られたものです。
高野さん達が座っていた10人掛けのテーブルは、ガラス張りで外から丸見えなんです。
そこを通りがかった丸川の女子社員が見つけた。
その子は日曜日の動画を転送されて見ていた。
あの動画に映っていた大柄の女の人もいる。
テスト用の雪名くんまでわざわざ同席している。
そして何より井坂さんがいる。
これは本気のお見合いだ!と思ったと同時に、怒りがふつふつと沸いて、写真を撮らずにいられなかったそうです」
「怒り…?」
高野と羽鳥がポカンと美濃を見る。
美濃は謎めいた微笑みを崩さず言う。
「そうです。
前日に別の女の子とデートしておきながら、今日は違う女の子を井坂さんに紹介して貰っている。
桐嶋さんと高野さんと羽鳥さんの女ったらし!
それに自分達が『選ぶ』上からの立場でいて女の子を下に見てる!
イケメンだからってふざけんな!…ってとこでしょうか」
ちがーう!!
あの子達は同一人物なんだよ!!
高野と羽鳥が心の中で叫ぶ。
こうなると日曜日にわざわざソックリメイクをして来てくれたのが悔やまれる。
月曜日のアミとルイとミホは頭の天辺から爪先まで完全に女の子仕様だったのだ。
高野と羽鳥は項垂れたまま、何も言えない。
だが、羽鳥がハッと顔を上げた。
「違うんだ、美濃!
美濃はプロアシの柳瀬を知ってるだろう!?
柳瀬も同席してるだろ!?
つまりそれは仕事関連の…」
「羽鳥…」
美濃の笑顔が益々謎めく。
「柳瀬くん、映ってないけど」
「え!?」
高野と羽鳥が美濃のスマホを見る。
柳瀬は井坂と後からやって来て、桐嶋と高野と羽鳥と雪名が席をズレた為、このメンバーの中では小柄な柳瀬は桐嶋の影になって全く映っていない。
美濃がやさしく言う。
「羽鳥、嘘で誤魔化す気なら、もっとマシな嘘をつかなきゃ。
じゃあ何で大柄の女の人や女の子がいるの?ってことになっちゃうよ?」
「美濃…違うんだ…」
羽鳥が何とか態勢を立て直そうとすると、美濃が立ち上がった。
「俺の知ってる噂はそれだけ。
でもまだ高野さんや羽鳥はマシなんじゃない?」
「どういう意味だ?」
高野が美濃を見上げると、美濃はにっこり笑った。
「一番大変な噂になってるのは桐嶋さんってことです。
こんなに立て続けに女の子と会ってるんだ。
再婚に本腰を入れたんだって、泣いてる子が大勢いますよ」
美濃はそれだけ言うと、音も無く会議室から出て行った。
木佐はワンコールで雪名と電話が繋がってホッと息を吐いた。
『木佐さん?
仕事中じゃないんですか?』
雪名は心配そうに、それでも嬉しそうに訊く。
良かった…
雪名はいつもの雪名だ…
木佐は安心すると、ズバリ訊いた。
「雪名、お前さ、日曜と月曜に桐嶋さん達と会ってるだろ?
あれってどういう集まり?」
『ああ、あれはアルバイトっす!』
雪名が余りにも屈託無く言い切って、木佐はズッコケそうになった。
「ア、アルバイトって…やっぱり女の子のテスト用の…?」
木佐が噂になっていることを訊いてみると、逆に『女の子のテスト用ってなんすか?』と聞いてくる始末だ。
話が進まん…
これはやっぱり直球でいくしかないな…
「そのアルバイトってなんだ?」
すると雪名はキッパリと言った。
『契約に関わる事なので言えません』
契約!?
女の子に会う付き添いにくっついて行くことが!?
木佐が言葉を失っていると、雪名が更に言った。
『版権とかにも関わるらしいっす!』
ははは版権!?
あのデートと見合いの動画と画像に、一番遠いであろう単語出てきて木佐がフリーズする。
『木佐さん?』
「あ…えと、悪い。呼ばれたから戻るわ…」
『分かりました!
お仕事頑張って下さい!じゃあまた!』
木佐は通話を切ると、その場に立ち尽くし途方に暮れるのだった。
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