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第4話

ある日の君はたくさんワッペンが縫い付けてある七分袖の服を着て、やっぱり大きなスニーカーを履いて唄ってるみたいに軽やかに僕のところまでやってきた。 僕たちはあちこち目的もなく歩いて、見つけた店に入ったり個展を覗いたり街角の写真を撮ったり公園で子どもと遊んだりして時間を過ごした。 特別なことは何もない。なのに僕は君からたくさんもらってるんだ。 もう僕は君からもらい続けないと空っぽになってしまうと思うよ。 「ねぇ、オレんちに来ない?この近くなんだ」 君は「あのお店に入ってみようよ」というのと同じくらいな気軽さで家に誘った。返事もするかしないかのうちに僕の手を引いて路地を抜け、近道するように狭い道を何度か曲がると道の突き当たりの小さなマンションに着いた。駆け込むように狭いエレベーターに乗ると君はサングラスを外して僕に笑いながら 「緊張してる?」 って僕の手に触れてきたから僕は 「なんで?」 と目を足元にそらした。 君のスニーカーがムズムズしてるように見えるなぁなんて思っていたらエレベーターが止まった。手を掴まれて歩き出すと君はポケットから鍵を出しながら 「こっち」 と、僕を引っ張って素早くドアを開けると僕を押し込んだ。 ふわっとかぶさってきたのは君の長くしなやかな腕。狭い玄関で背中から抱きしめられた僕は何も言えなくてただ体に力が入って固まった。 「ごめん、このままでいて。オレにパワーちょうだい」 身長が同じくらいだから肩にちょうど頭が乗っていて息遣いが伝わってくる。僕の体にパワーなんてない、入ってるのは君なんだけどな。ステージでは風に乗るように動く長い指を見つめた。 「明日からツアーでしばらく会えないんだ。オレがいなくて寂しくない?」 「……寂しいけど、たくさん会ってくれたから大丈夫だよ。僕はいつも君のことを考えているし、僕はずっと見てるだけだったから慣れてるよ」 「慣れてるなんて……言うなよ。オレは寂しいんだよ」 僕は君に何かをあげることができてるんだろうか。あげられるものはなんでもあげるし、一緒にいないと寂しいのなら一緒にいたい。 抱きしめる力が緩んだ隙に腕から抜けて君の方に向きを変えた。目をそらす君をそっと抱きしめて、不思議な向きに整えてある髪に触れて言った。 「ごめん、本当は僕も寂しい。君がいないと僕は空っぽになる」 僕たちはその夜、同じベッドで眠った。ふざけて遊ぶ子どものようにくすぐり合ったりつつき合ったり。 そのうち僕は我慢できなくてそっと君の唇に指を当ててみた。君も綺麗な人差し指でぼくの唇に触れた。僕たちの視線は唇越しに絡み合って、そのまま唇は違う生き物になったみたいに絡み合った。 もう『僕たち』じゃなくて僕と君は『ひとつ』だよ。

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