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第3話
アンコールが2回繰り返され明るくなって足元が照らされると、これからのことを考えて踏み出す足が止まった。僕は終わったらあのバーに行くと約束をしてしまった。本当に君が来て昨日のことを話してくれるんだろうか。気まぐれに声をかけてみただけなんじゃないか。
誰もいなくなり片付けているスタッフに促されてのろのろと歩き出すと出口でグッズ販売をしているのに気付いた。音源は全て持っているし派手なTシャツを着るでもなし。ふとその横に小さな封筒を見つけて手を出すと「チェキです。昨日写したものですよ」と言われ一枚買って開けてみた。
君が顔の横に開いた手を当てて変顔で笑って写っていて日付とサインが入っている。思わず頬が緩んでにやけてしまった。男もこういうの買うのかなと考えたら恥ずかしくなって足早にその場を離れた。
心地よい風の中ビルの間を抜けた。早く行きたいような行きたくないような迷いのある足取りで、狭い階段を下りてバーの扉を開けるとカウンターに君が座ってこっちを見ていた。
「おそーい」
スツールに座って足をぶらぶらさせながら早く早くと手招きをした。
「あの、打ち上げとかないの?」
「何言ってるの、約束したでしょ。早く座りなよ」
昨日のことは話してくれなかったけど、僕は君のことを知りたくて、君も音楽のことをたくさん語って気がつくと2人で公園にいたんだ。
僕たちは昼間の熱を残した公園の、水が止まっている噴水の縁に座って指先で水を飛ばしながら
「また会おうよ、ライブじゃない時にも。オレ、音楽関係以外の友達いないからさ」
「ふふ、僕も音楽関係の友達いないからちょうどいいね」
最高の夜、僕たちは朝まで語り合った。
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