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第5話
ツアーから君は帰ってこない。会いに行ってもいいのかな。しばらく会えないって言ったから待つしかないのかな。
僕の中の君がどんどん減って行く。
SNSは一日二回更新されて君の様子は知ってるから元気なのはわかる、けど本当はどうなの?僕に会えなくて寂しいって言ったのは嘘なのかな。
メッセージのやり取りが少し減った気がする。SNSするならもっとメッセージくれたらいいのに。一方的に送り続けるなんて、僕の中の君が減っていくみたいだ。
電話も僕の仕事の時間とタイミングが合わないからしなくなったのかな。僕からかけるタイミングがわからない。
あの日、僕たちは何かをあげるとかもらうとかそんなんじゃなくなったと思ったのに。
でも、本当はわかってたんだ最初から。
沢山の人に唄を届けるのが君のすべきことなんだよね。
僕だけのためじゃない。
僕は君が優しくしてくれるから勘違いをしていた。
君は僕のものだって思いたかったけど違う、僕はもう『僕だけの君』じゃないことに耐えられないかもしれない。
ポストに手紙が届いた。ハロウィンライブのチケットだった。
「会いに来て」
それだけ書かれたメモを見つめると、回数の減ったメッセージや君の顔を思い出して文字が涙で見えなくなった。僕はずっと聞いてなかった君の唄をヘッドフォンで聴きながら決めた。
このライブで最後にしよう。
急に涼しくなったから心も寒くなったかな、なんて思いながらポケットにタオルを押し込んだ。僕は今日のライブで君とサヨナラをする。君は僕がいなくても大丈夫だし、僕も元に戻るだけだ。
そう考えただけで涙が止まらない。だけど、行かなきゃ、今日は最後だから。泣くなよ。
久しぶりに見る君は、なんとなく顔色が悪くて元から細かったけどさらに痩せたように見える。
元気なんだよな?
最後に君を僕の隅々まで詰め込むために皮膚から毛穴から細胞から君を吸収しつくすから、唄って……。
「トリックオアトリート!」
といいながらアンコールのために出てきて飴を客席に撒き散らす。歓声とともに受け取る人たちを見ながら僕は最後にステージの姿を目に焼き付けようと君を見つめていた。
ポリスのコスプレで出て来た君は帽子を取って客席に投げる。帽子は飴を拾っている人たちを超えて僕の前に飛んできた。その帽子を拾って君を見ると笑っている。
不似合いな帽子を頭に乗せながら僕は君に伝えたくなった。
「やっぱり無理だ、君なしでは死んじゃうよ」
アンコールを三回も演って、今日は特別な何かがあるのを感じながら、終わったらすぐ会いに行くと決めていた時
「俺たちのバンドは今日で解散します。今までありがとう」
そういうと照明が一気に落ちた。
悲鳴や叫び声、君の名やメンバーの名を呼ぶ声とが入り混じった音の中で僕は人をかき分けて出口に向かった。
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