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第7話
それから僕は毎日あのバーで待った。
あの頃から顔なじみになったバーテンダーは、黙っていつものウイスキーをロックで出してくれる。僕はお酒は強くない。シングルで香りを楽しむだけなのに君は同じように同じものを僕にならって楽しんでくれた。
下を向くだけでぼやけた視界が雫になりそうだ。パチパチとまぶたを動かしてごまかす。涙も尽きてきたのか泣くことも減ってきたのに。
この場所は特別だ。
今日で五日目、でももう数えるのはやめよう、数えたからって会えるわけじゃない。
あの時気まぐれで買ったチェキは、僕を笑わせようとふざけた顔でこちらを見ている。
よく磨かれ、顔が映りそうなカウンターに両ひじをつき頭を抱えて氷を見つめていたら、誰かが隣にすっと座った。僕は怖くて顔が上げられなかった。
その足を横目で見ただけでわかったのに。大きいスニーカーと僕が履かないようなパンツ。君が来てくれた……僕は……。
「何飲んでるの?」
初めて会った時と同じ声と言葉に顔を上げる。ボヤけてよく見えないけどにっこり笑っているのだけはわかる。僕の目からはもうなくなりかけてたものが、どんどん溢れてきたんだ。
「探してくれてありがとう」
「う……ん…」
「見つけてくれてありがとう」
僕はうんうんと頷いて君が出してくれた手を握った。本当に死んでしまうのではないかと思った、僕はまた君の声に溺れそうになっているよ。会いたかった、やっと会えた。夢じゃない。
しばらくして君はポツリと言った。
「もう唄ってないんだ」
「うん」
「唄わないオレは役に立たない」
彼は唇をキュッと噛んで僕を見ない。
「そんなことはない!僕はもう君に溺れそうなくらいに満たされてる。
声じゃないんだ、唄でもない、君自身に満たされたいんだ……」
僕が落ち着くのを待って君は話し始めた。
顔を出して唄えるような状態ではない病気だったこと、だんだん悪くなるのを自分の唄が好きだという僕に言い出せなかったこと、弱ってる姿を見せたくなかったこと。
「オレはカッコイイ自分を演じてたんだ」
そう言って僕に向かって頭を下げた。
僕はカウンターと平行に向きを変えて両手で彼の手を握った。
「僕は君の部屋に行った時に思ったんだ。僕たちは離れててもひとつのものなんだって。
だから自分の片割れを死ぬまで探すって決めてた。
また僕に会いに来てくれてありがとう、もう黙っていなくならないで」
俯く君の変わった髪の流れを見つめていると、君は顔を上げて
「病気の間に僕の心は一度死んだ。
今までの僕には戻れないなら死んでしまえばいい、そう思って全てをゼロにした。
そのつもりだったけど、寂しくてはみ出しちゃったところを見つかっちゃった。
ありがとう、もういなくなったりしない」
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